DAILY KOREAN PRO BASEBALL 2

1982年に発足し、2024年時点で10球団が加盟する韓国野球委員会(KBO)による韓国のプロ野球リーグ(通称KBOリーグ)に関するブログ。レギュラーシーズン、ポストシーズン(韓国シリーズなど)の試合速報や球団別の情報、現役プロ選手が含まれる野球韓国代表が出場する国際大会の情報などもお伝えします。 twitter : @kbodigest

  第3回 ネクセンヒーローズ

「高尺スカイドーム時代の幕開け」 
2016年成績 : 77勝66敗1分け(公式戦3位・準プレーオフ敗退)
チーム総合採点…75点


1. 【ドームへ移れど方針は変わらず】
 2016年シーズン、韓国初のドーム型野球場・高尺スカイドームへ本拠地を移したネクセンヒーローズ。その戦いぶりを振り返りたい。
 
 2015年シーズンオフは4年連続本塁打・打点の二冠王だった主砲パク・ピョンホがポスティングシステムメジャーリーグベースボール(MLB)・ミネソタツインズ、FA(フリーエージェント)で守護神として活躍していたソン・スンナクがロッテ、そしてベテラン外野手のユ・ハンジュンがKT、先発の柱として活躍していた外国人投手バンヘッケンが日本プロ野球埼玉西武へと移籍した。本拠地移転ながらも相次ぐ戦力の流出により、2016年シーズン開幕前のネクセンへの評価は決して高くなかった。

 記念すべき4月1日、高尺スカイドーム初のプロ野球公式戦となったロッテとの開幕戦で、2015年までネクセンで活躍していたソン・スンナクに抑えられ1-2で敗れ、嫌なムードが漂った。しかし翌2日のロッテ戦で2016年シーズンの公式戦初勝利をあげ、3日のロッテ戦で9回裏にユン・ソンミンのタイムリーで高尺スカイドームでの初のサヨナラ勝ちを記録するなど、不安は払しょくされた。そして2015年まで兵役のため入隊し一軍登板のなかった27歳のシン・ジェヨンがプロ5年目にして才能が開花し、4月だけで先発で4勝をあげる活躍を見せた。他にはプロ2年目の19歳の若手パク・チュヒョンも先発として起用された。またソン・スンナクに代わる抑えの座にはキム・セヒョンが定着した。 
 主力打者のユン・ソンミンが4月前半から負傷で1か月以上離脱したが、公式戦開幕前の3月下旬にサムソンからトレードで移籍したチェ・テイン、新外国人野手のダニー・ドーンなども活躍し、5月後半には勝率5割を超えて安定した成績を残すようになっていた。2015年までの本拠地・木洞野球場は比較的狭く本塁打攻勢がチームカラーであったが、パク・ピョンホやカン・ジョンホといった強打者がチームを去ったこともあり、盗塁数が増えた。2015年は負傷で本領を発揮できなかった俊足の安打製造機ソ・ゴンチャンが復活し、コ・ジョンウク、キム・ハソンなど走力の高い選手に、イム・ビョンウク、パク・チョンウムなどの若手も積極的に起用された。
 6月以降は首位トゥサン、2位NCとはだいぶ差がついたが3位が定位置となってきた。カンフル剤として、6勝を記録しながら先発投手として長いイニングを投げられない欠陥が露呈していた外国人投手コエロを退団させ、6月20日、その代役として新外国人投手マクレガーと契約した。7月は好調で勝率を5割後半に乗せたが、依然としてトゥサン、NCの姿は遠かった。また7月22日には埼玉西武で活躍できず退団したバンヘッケンの復帰が決定し、その前には外国人左腕フィアベンドを退団させた(7月末にKTと契約)。7月28日、バンヘッケンの韓国復帰後初登板となったトゥサン戦は12-1と大勝し、今後に期待を抱かせた。
 バンヘッケンは8月までに4勝と期待に応え、シーズン中盤での外国人投手2名の入れ替えは一定の効果があった。若手のチェ・ウォンテの先発起用などもあったが、シーズン前半だけで10勝を記録したシン・ジェヨンの調子が落ちるなど先発投手陣のやりくりには苦労した。首位を独走するトゥサンだけでなく2位NCの姿もとらえきれず、4位以下は勝率5割前後で混戦の争いを続けていたため、3位ネクセンはこれ以上の跳躍もないが、後ろから追いかけてくる者もない状態となった。そのためやや緊迫感のないまま、10月9日に全日程を終え公式戦3位で4年連続で進出したポストシーズンは準プレーオフからの出場となった。
10月13日からの準プレーオフでは、キアとのワイルドカード決定戦を勝ち抜いたLGと対戦した。LGは10月10-11日にキアと2試合激戦を繰り広げていて、日程上ではネクセンが有利なはずであったが、相手の勢いに押されてしまった。高尺スカイドームでは初のプロ野球ポストシーズン開催となった準プレーオフ第1戦、ネクセンは先発マクレガーが崩れ打線も抑え込まれ0-7で完封負けを喫した。第2戦はバンヘッケンの好投もあり5-1で勝利したが、舞台を敵地・蚕室に移した第3戦はポストシーズン初登板のシン・ジェヨンが打たれまたもや打線に元気がなく1-4で敗れ、第4戦は2回表までに4点を先行したが、若返りを図ったチームの経験不足もあったのか守備でのエラーが出てしまい継投策が機能しなかったため、4-5と逆転負けを喫し、準プレーオフでの敗退が決まった。優勝には手が届かなかったが、戦力的には厳しいと言われた開幕前の低い評価を跳ね返し、資金力に乏しいがための選手の育成力と起用の巧みさを背景としたチーム方針には変わりがなく、3位という結果を残した。


2. 【チーム分析】
 ネクセンのチーム成績を見ると、4位以下に差をつけて3位で終わったのはチーム戦略の巧みさによるところが大きいと感じられる。
 チーム防御率4.96は10チーム中4位で、1位のトゥサンや2位NCとは差がついてしまっていた。先発投手陣はクォリティースタート(先発投手が6回自責点3以内の成績)は45試合で、10チーム中7位と層が厚かったとは言えない。見事新人王に輝いたシン・ジェヨンは15勝を記録したが、9月以降は明らかに失速していた。頼みの外国人投手であるが、7月末から復帰したバンヘッケンは7勝と期待に応えたが、同じく6月からのシーズン途中入団だったマクレガーも6勝と一定の結果を残した。シーズン前半は先発として起用されたパク・チュヒョンは7勝したが、そのほかの韓国人投手が結果を残せなかった。2017年以降も若手の起用に期待したい。
 リリーフ陣は比較的安定していた。チームホールド数(74)は1位のLG(75)と大差がなく、チームのセーブ数(38)はキアと並び1位だった。これまで先発、中継ぎとして活躍していたキム・セヒョン(2015年末にキム・ヨンミンから改名)が28歳にして抑えに転向して最多セーブ(36)のタイトルを受賞したのは、ネクセンならではの選手起用と言っていい。また軍から除隊されチーム最多タイの67試合に登板、最多ホールド(25)のタイトルを受賞したイ・ボグンが中継ぎの柱となり、同じ右腕で67試合に登板したキム・サンスも21ホールドと活躍した。また中継ぎ陣では右のマ・ジョンギル、左のオ・ジュウォン(8月にオ・ジェヨンから改名)も活躍した。
 
 ネクセンのチーム打率は.293と10チーム中2位だが、チーム本塁打数134は同7位、チーム総得点765は同5位と、爆発力のある打線とはいいがたかった。チーム最多本塁打は10月に21歳となったキム・ハソンの20本だったが、実はチーム最多タイの28盗塁と走力も兼ね備えていた。同じ28盗塁のコ・ジョンウク、26盗塁のソ・ゴンチャンなど、走力の高い選手を起用し長打力不足を解消する戦略を立てたと思われ、チーム盗塁数は154と10チーム中1位だった。チームの中軸にはユン・ソンミン(19本塁打・80打点)、キム・ミンソン(17本塁打・90打点)と勝負強い打者がそろい、正捕手パク・トンウォン(14本塁打・70打点)、外国人打者ダニー・ドーン(16本塁打・70打点)が下位打線の脅威となっていた。また36歳のベテラン外野手イ・テックンも127試合に出場し存在感を示した。

 傑出した選手は少ないが、ネクセンを率いて4年目のヨム・ギョンヨプ監督は、機動力を生かした打線とリリーフ陣を巧みに生かした試合運びで3位という結果を出した。


3. 【オフシーズンの動向】
 ネクセンの準プレーオフ第4戦での敗退が決まった直後、ヨム・ギョンヨプ監督は突然辞意を表明した(2017年よりSKの団長に就任)。後任にはコーチ経験がないが球団職員としてチームを熟知しているチャン・ジョンソク新監督が就任した。外国人選手の入れ替えも、マクレガーを退団させ新外国人投手ショーン・オサリバンと契約したにとどまり、現有戦力に大きな変化はない。

 大企業からの支援を受けて豊富な資金力を誇るプロ野球チームが多い中、あくまでもネクセンタイヤなどからのスポンサー料が運営資金の中心となっているネクセンヒーローズは、独自の路線でチームの強化を図り結果を出し続けてきた。高尺スカイドームに本拠地を移転してもその姿勢に揺らぎがなかった。2017年シーズンは新監督のもと、さらなる新戦力の成長と台頭により、球団創設10年目にして初の韓国シリーズ優勝となるであろうか。


(文責:ふるりん