DAILY KOREAN PRO BASEBALL 2

1982年に発足し、2024年時点で10球団が加盟する韓国野球委員会(KBO)による韓国のプロ野球リーグ(通称KBOリーグ)に関するブログ。レギュラーシーズン、ポストシーズン(韓国シリーズなど)の試合速報や球団別の情報、現役プロ選手が含まれる野球韓国代表が出場する国際大会の情報などもお伝えします。 twitter : @kbodigest

  第6回 ハンファイーグルス

「奈落からの脱出」 
2015年成績 : 68勝76敗(公式戦6位)
チーム総合採点…65点


1. 【4年ぶりの最下位脱出】
 2015年シーズン、名将キム・ソングン監督の就任により近年の低迷から脱出を図ったハンファイーグルス。2012年から2014年まで3年連続最下位、過去6年間で5度の最下位と暗黒時代を救えるのは、サンバンウル(1999年解散)などをポストシーズン進出に導き、歴史の浅かったSKを3度の韓国シリーズ優勝に導いたキム・ソングン監督しかいない、とファンや関係者の期待は否が応にも高まった。オフシーズンの補強の目玉として、サムソンの韓国シリーズ4連覇に主力として貢献しFA(フリーエージェント)を行使したペ・ヨンスとクォン・ヒョク、キアからソン・ウンボムの3名の投手を獲得していた。

 3月28日の敵地・木洞でのネクセンとの開幕戦は惜しくも延長サヨナラ負けを喫したが、翌29日のネクセン戦で5-3の接戦でシーズン初勝利をあげ、そしてキム・ソングン監督にとってはハンファでの初勝利となった。4月6日、本拠地・大田でのLG戦で新外国人野手モーガン(元横浜DeNA)のタイムリーでサヨナラ勝ちするなど、劇的な試合がファンたちを沸かせた(モーガンは韓国に適応できず5月上旬に退団)。戦力補強として長打力のある左打者イ・ソンヨル、控え捕手ホ・ドゥファンをネクセンとの1対2トレードで獲得した。イ・ソンヨルは移籍翌日の4月9日のLG戦で2ランを打つなど早速活躍した。
 4月24日から26日までのSK3連戦は、キム・ソングン監督にとって2011年まで率いた古巣相手の対戦となり大いに注目を集めた。そして先発として起用されたアン・ヨンミョン、リリーフの柱になったクォン・ヒョクの好投でシーズン初の同一カード3連勝となり、ハンファへの注目度はさらに増した。大型連勝はなかったが、シーズン開幕から低空飛行を続けていた2014年までとは何かが違うと感じたファンたちが押し寄せ、本拠地・大田のハンファ生命イーグルスパークは満員の試合も珍しくなくなった。そしてビジターの試合でもハンファ戦は他のカードとは違う盛り上がりを見せ始めた。特に、8回ハンファの攻撃の際、音響効果なし、応援団長の笛の音に合わせ観客たちが「チェ!ガン!ハン!ファ!(最強ハンファ)」と大声で叫ぶ独特の応援スタイルが注目を集めた。
 勝率5割前後を行き来するチームのカンフル剤として、5月6日、一キアとの3対4の大型トレードを断行し左腕イム・ジュンソプ、代打要員イ・ジョンファンなどを獲得した。さらに5月15日新外国人野手ジェイク・フォックスと契約した。しかしこのフォックス、5月23日のKT戦で負傷し長期戦線離脱となってしまった。首位争いを繰り広げるサムソンなど先頭集団からは話されていたが、8位までの混戦グループに入り、戦力に乏しい新球団KTが悲惨な戦いを続けているため最下位に転落することはなさそうだという安心感はあったし、ファンも期待をもって試合を見ることができた。
 6月10日のサムソン戦、日本プロ野球・広島を退団後韓国へ戻り、2015年シーズンよりハンファに入団したシン・ソンヒョンが自身プロ初の本塁打が逆転満塁本塁打という劇的なデビューで勝利し、翌11日のサムソン戦も勝利し3連勝となった。しかしこれ以上の連勝ができず4位以上の壁は依然高かった。6月25日、主力打者として活躍していたチェ・ジンヘンの使用薬物禁止が発覚し出場停止処分を受け、チームに激震が走った。シーズン半ばを過ぎて勝率5割以上を何とか維持し、最下位脱出は確実になってきたと思われたため、2007年以来8年ぶりとなるポストシーズン進出への期待が高まっていった。
 7月も粘り強く戦い5位には踏みとどまっていたが、上位をうかがうほどの勢いはなかった。故障で戦線を離脱した外国人投手ユーマンに見切りをつけ、ポストシーズン進出のために大物外国人投手エスミル・ロジャースと契約した。また新戦力として期待されながら故障も多かったソン・ウンボムが7月28日のトゥサン戦で移籍後初の先発勝利と、明るい話題も出てきた。
 8月4-5日、SKとの直接対決で連敗し5連敗となり6位に後退した。翌8月6日、この危機を救ったのが誰あろうロジャースだった。なんとLG相手に韓国初先発初完投というプロ野球史上初の快投をやってのけたのである。ロジャースは次の登板となった8月11日のKT戦で完封勝利をあげ、ハンファは翌12日のKT戦で出場停止が解けたチェ・ジンヘンの本塁打で2015年シーズン初の4連勝とし、混戦となった5位争いで生き残れるかに思えた。しかし8月20日のNC戦で7連敗と落ち込み、6位に後退と力尽きだしたかに見えた。
 8月22日のキア戦で韓国2度目の完封勝利と、ロジャースの活躍は目覚ましかった。8月26日のサムソン戦では戦線に復帰したフォックスがなんと捕手として途中からマスクをかぶり、4番キム・テギュン(元千葉ロッテ)の活躍で延長11回サヨナラ勝ちと、戦う姿勢を捨てていないところを示した。4位以上とは5ゲーム以上の差がついたシーズン終盤、勝率5割未満の大混戦の5位争いがハンファ、SK、ロッテ、キアにより繰り広げられた。
 9月1日のキア戦、1番打者として活躍を続けるチョン・グヌがプロ野球史上初の10年連続20盗塁を記録し、アン・ヨンミョンも好投し勝利したが、5位争いからなかなか抜け出せなかった。ロッテに5位の座を譲り、9月12日のロッテ戦で5連敗で8位にまで後退した。ここでもチームの危機を救ったのはロジャースで、翌13日のロッテ戦で好投し4勝目をあげた。そしてロジャースは9月25日のネクセン戦でもシーズン3度目の完封勝利となる5勝目をあげ、ロッテと同率6位に並んだ。そして翌26日のネクセン戦でタルボットが10勝目で2011年のリュ・ヒョンジン(現ロサンゼルスドジャース)以来となる2ケタ勝利投手となり、単独6位に浮上した。
 シーズンも大詰めを迎え、5位争いは最後までわからなかった。9月29日のサムソン戦、優勝争いをする相手にフォックスが2打席連続本塁打と活躍、無名に近い23歳の左腕キム・ヨンジュの好投もあり、7-6と接戦を制し望みをつないだ。翌30日のサムソン戦では18得点、ロジャースの好投で大勝した。しかし10月1日のネクセン戦で敗れ7位に後退してしまった。
 10月2日のLG戦はアン・ヨンミョンの10勝目で勝利し、翌3日、公式戦最終戦は敵地・水原で最下位KTが相手となった。ハンファはチョン・グヌのタイムリーで1点を先制したが追加点が奪えず、ペ・ヨンスが勝ち越し点を許しそのまま1-4で敗れ、5位以上の可能性が消滅し7位のまま全日程を終えた。だがその後キアが10月6日の公式戦最終戦まで4連敗し単独7位で終わったため、ハンファの順位は6位となった。熱戦が続き、近年最下位に沈んでいた停滞を忘れさせてくれた2015年シーズンは5位に手が届くところまではきたが、まだまだ足りない部分も感じさせられた。
 

2. 【チーム分析】
 2015年シーズン、最下位から脱出したハンファであったが、投打の成績を振り返るとやはり近年低迷していたチームらしく上位進出は厳しい数字がはっきり残っていた。6位で終わることができたのはキム・ソングン監督の采配と混戦だった5位以下の争いが5割未満の混戦だったことが大きい。
 
 チーム防御率5.11は10チーム中9位、チーム総失点800は3位と、投手陣は脆弱だった。
 シーズンを通して先発ローテーションを守ったのはタルボット、アン・ヨンミョンの2名でともに10勝を記録した。また8月になってようやく韓国デビューを果たしたロジャースは2か月あまりで6勝を記録したが、そのどれもが混戦の5位争いの渦中で価値のある1勝であった。現在プロ野球選手現役最多の通算124勝の実績を買われてハンファに移籍してきたペ・ヨンスは、35歳という年齢による衰えもあったか、先発ローテーションを守り切れず4勝に終わった。またキム・ソングン監督がSK時代の時の主力だったソン・ウンボムも故障が多く期待に応えられなかった。2014年7勝をあげ頭角を現したイ・テヤンが手術で2015年シーズン一軍登板がなかったのが惜しまれた。20歳の新人キム・ミヌも36試合に登板し、未来の主力投手となるため一軍のマウンドで経験を積んだ。
 リリーフでは78試合と公式戦144試合の半分以上に登板した左腕クォン・ヒョクが軸となった。9勝13敗と最多敗戦投手となったが、チーム最多の17セーブを記録した。そのほかパク・チョンジン、キム・ギヒョンが左のリリーフとして活躍した。右腕ではソン・チャンシクが68試合に登板、8勝を記録した。先発が弱い分決して質が高いとは言えないがリリーフのやりくりで何とか白星を拾っていたことがわかる。またチーム敬遠数38は10チーム中最多で、ベンチの指示が徹底していたともいえる。比較的安定していた右腕ユン・ギュジンは10セーブを記録したが、故障で十分働けなかったのが悔やまれる。アンダースローではチョン・デフンが51試合に登板しワンポイントとして起用された。

 打線も決して強力ではなかった。チーム打率.271は10チーム中8位、チーム本塁打数130も8位、さらにチーム盗塁数80は最下位だったが、チーム得点717は6位と得点効率は悪くなかった。その要因に、サムソンと並んで10チーム中1位タイの581の四球を選び、10チーム中1位の109の死球を受けていたことがあげられる。キム・ソングン監督のベンチからの指示が少なからずあったのかもしれない。また犠打139も1位と作戦も徹底していたと言える。
 チームの顔、キム・テギュンは4番打者として21本塁打・102打点でチームの二冠王と健在だった。他に長距離砲と言える選手はいなかったが、32歳ながら自己最高の16本塁打と活躍した左打ちの外野手キム・ギョンオン、禁止薬物使用で一時期出場停止だったが18本塁打と打線に欠かせない存在だったチェ・ジンヘン、打率は低かったが前半戦を中心に自己最多の16本塁打と意外性が持ち味だったキム・フェソン、ネクセンからトレードで移籍してきた左の大砲イ・ソンヨルなどがそろっていた。
 WBSCプレミア12韓国代表でも活躍し優勝に貢献したチョン・グヌ、イ・ヨンギュの上位打線も効果的で、キム・ソングン監督の作戦を十分に理解し攻守ともに存在感を見せた。不動の主軸と言えるのはこの2人とキム・テギュンの3人だけで、あとは状況に応じて選手を使い分け競争意識を高めた。内野ではショートのレギュラーに成長したカン・ギョンハク、守備要員としてベテランの持ち味を発揮したクォン・ヨングァン、外野では守備要員として重宝されたソン・ジュホがこれまでにない輝きを見せた。不動の正捕手もいなかったが、40歳のベテラン、チョ・インソンが106試合と最多出場だった。


3. 【オフシーズンの動向】
 2015年オフシーズンも、過去2年と同じく積極的な補強を行った。FA市場ではキム・ソングン監督のもとSKの優勝に貢献したリリーフの左腕チョン・ウラム、ロッテから先発、リリーフともに起用可能なベテランのシム・スチャンの2人を獲得した。余剰戦力を対象とした2次ドラフトでは、キアで実績のあるチャ・イルモクを獲得した。
 外国人選手はシーズン終盤大活躍したロジャースと高額年俸で再契約し、10勝をあげたが腰の故障の不安を抱えるタルボット、捕手まで務めるほどチームへの貢献の姿勢を見せたが打撃面でやや物足りなかったフォックスは退団となった。新外国人選手としてMLB(メジャーリーグベースボール)通算71本塁打、まだ27歳の大砲ウィリン・ロサリオと契約し話題を呼んだ。(2月2日現在もう1名の外国人選手は未定)
 2015年最下位から何とか脱出した勢いを買って、2016年シーズンこそ9年ぶりのポストシーズン進出を果たしたいところだ。年々充実していく戦力によりその可能性はこれまでになく高く感じられるであろうが、他チームで活躍した名のある選手たちだけでなく、未来のハンファを担う若い選手たちも育てていくことも肝要だ。猛練習で知られるキム・ソングン監督の育成の手腕にも注目したい。


(文責:ふるりん