DAILY KOREAN PRO BASEBALL 2

1982年に発足し、2024年時点で10球団が加盟する韓国野球委員会(KBO)による韓国のプロ野球リーグ(通称KBOリーグ)に関するブログ。レギュラーシーズン、ポストシーズン(韓国シリーズなど)の試合速報や球団別の情報、現役プロ選手が含まれる野球韓国代表が出場する国際大会の情報などもお伝えします。 twitter : @kbodigest

  第2回 サムソンライオンズ

「突如訪れた黄金時代の終焉」 
2015年成績 : 88勝56敗(韓国シリーズ準優勝)
チーム総合採点…80点


1. 【公式戦5連覇達成、しかし…】
 2011年から2014年まで、プロ野球史上初となる公式戦・韓国シリーズの4年連続統合優勝を達成し、2015年シーズンも優勝候補大本命にあげられ史上初の韓国シリーズ5連覇もたやすいのではないかと見られていたサムソンライオンズ。投打ともに戦力が充実し、次代を担う若手の台頭があれば永遠に黄金時代が続くかのような錯覚もあった。


 3月28日、2015年が本拠地として最後のシーズンとなる大邱市民運動場野球場での開幕戦で、SK相手に新外国人投手フィガロ(元オリックス)の好投、期待の若手ク・ジャウクやパク・ハニ、イ・スンヨプ(元オリックス)らベテラン勢の活躍もあり、8-1で勝利し開幕戦での連敗を3で止めた。4月半ばにチェ・テイン、パク・ハニと主力選手の負傷による離脱があったが、22歳のク・ジャウクや正捕手イ・ジヨンの活躍などもあり首位戦線に残り、5月も6割前後の勝率を維持し続けた。
 フィガロは5月だけで5勝と打線の援護もあり勝ち星を伸ばし、6月19日のSK戦では10勝一番乗りとなった。もう一人の新外国人投手クロイドも先発ローテーションを守り、ユン・ソンファン、チャ・ウチャン、チャン・ウォンサムの韓国人投手と10チーム中最強と言っていい先発陣を構成していた。またチェ・ヒョンウ、パク・ハニ、外国人打者ナバーロなどタレントのそろった打線の破壊力も高かった。そしてチームの顔であり精神的支柱であるイ・スンヨプも好調を維持し、相性のいい準本拠地・浦項での6月3日のロッテ戦でプロ野球史上初となる個人通算400号本塁打を達成し、首位を走るチームをさらに活気づけた。
 NC、トゥサンなどとの激しい順位争いの中でも首位を維持し続けた。8月1日には6連勝で2位トゥサンとのゲーム差を4.5にまで広げた。その後6割を超える勝率を維持していたが、新興勢力の2位NCが猛烈な追い上げを始めた。それでも9月1-2日のNCとの直接対決で2試合とも勝利しいったん突き放した。しかしNCの勢いは衰えずマッチレースは続いた。9月22日、NCとの最後の直接対決でチャ・ウチャン、アン・ジマン、イム・チャンヨン(元東京ヤクルト)の完封リレーで勝利するなど、優勝というゴールに向けて何とか逃げ切ろうとしていた。9月24日のKT戦で、ナバーロが外国人打者のシーズン最多本塁打新記録となる46号2ランを打った(最終的には48本まで伸ばした)。
 優勝争いはサムソン、NCともに140試合以上を消化しても決着がつかなかった。優勝を目の前に4連敗と足踏みしていた10月2日のKT戦は、1982年の球団創設以来33年あまりの歳月をともに過ごした本拠地・大邱市民運動場の最後の公式戦となった。試合は9回表イム・チャンヨン(元東京ヤクルト)が2点のリードを守れず延長戦となったが、10回裏相手の暴投でサヨナラ勝ちし、盛大なセレモニーとともに優勝へ最後の弾みをつけた。
 翌10月3日のネクセン戦で先発フィガロ、アン・ジマン、イム・チャンヨンの完封リレーで1-0と最少得点を守り抜き、NCが敗れたためプロ野球史上初となる5年連続公式戦優勝を達成した。またこの日、上位打線に定着したパク・ヘミンがチーム史上初となるシーズン60個目の盗塁を成功させた。10月6日の公式戦最終戦となったキア戦でチャン・ウォンサムが10勝目を記録し、これまたプロ野球史上初めて同一チームから5人(ほかにはユン・ソンファン、フィガロ、チャ・ウチャン、クロイド)もの10勝以上の投手を出した。
 
 史上初となる5年連続韓国シリーズ優勝に向けて、投打ともに死角がないように思えた。現行のポストシーズンの制度では、公式戦優勝チームは地力が劣る2位以下のチームがプレーオフなどを勝ち上がる際に大きく消耗してしまうのとは対照的に余裕をもって決戦に臨むことができるため、2002年のサムソン以降2014年まで13年連続公式戦優勝チームがそのまま韓国シリーズに優勝していた。2015年シーズンから一軍が10球団に拡張されたことで公式戦5位までポストシーズンへ進出できるようになったが、公式戦優勝チームの優位は揺るがないはずであった。
 ところが10月26日からの韓国シリーズを前にしてチームに激震が走った。チーム最多勝(17勝)の先発の柱ユン・ソンファン、ホールド数プロ野球新記録(37)を達成した中継ぎの柱アン・ジマン、守護神として最多セーブ(33)に輝いたイム・チャンヨンの3人の主力投手がマカオでの海外不法賭博容疑が浮上したため、韓国シリーズに出場させないことになった。替えの利かない選手たちの不在により、史上初の偉業に暗雲が垂れ込め始めた。
 韓国シリーズの相手は終盤まで激しい優勝争いを繰り広げたNCではなく、公式戦3位から準プレーオフプレーオフを勝ち上がってきたトゥサンだった。これまでの韓国シリーズなら、激闘で疲弊しているトゥサンよりもサムソンのほうが圧倒的に有利であったが、まさかの主力の不在で士気や精神面に大きな影響がないとはとても断定できる状況ではなかった。
 10月26日、大邱での第1戦では先発フィガロが6失点と打たれ主導権を握られた。その後相手の守備の乱れやナバーロの本塁打で追い上げ、9-8と逆転勝利をおさめ5連覇へ前進した。投手陣に大きな穴が開いていても主力打者は健在だったため打ち勝てば何とかなるかと思われたが、第2戦以降はその打線が沈黙した。大邱での第2戦を1-6で落とすと、舞台を敵地・蚕室に移した第3戦も1-5で敗れた。第4戦は一時期3-2とリードしたが、先発から特別にリリーフへ回った頼みの綱のチャ・ウチャンが打たれ打線もチャンスを生かせず3-4で敗れ、もう一敗もできない状況に追い込まれた。
 同じトゥサンとの対戦だった2013年の韓国シリーズは、第4戦を終えて1勝3敗と追い込まれたが第5戦から3連勝し3連覇を達成した。しかし2年前の再現をしようにもチームには起爆剤が何もなかった。こうして第5戦は先発チャン・ウォンサムが3回持たず降板するとあとはトゥサンの勢いに押される一方で2-13と大敗し、まさかの第2戦以降の4連敗で5連覇の夢は潰えてしまった。プロ野球史上初の偉業への挑戦は、一部の選手たちの先例のない不祥事により水の泡と帰した。


2. 【チーム分析】
 2015年シーズンのチーム防御率は4.69で10チーム中3位と、リリーフ陣が以前より手薄になったことで投手力で圧倒したとは言えなかった。だが先述したように10勝以上の投手を5人も出すなど先発陣は充実していた。ユン・ソンファン(17勝)、フィガロ(13勝)、チャ・ウチャン(12勝)、チャン・ウォンサム、クロイド(10勝)の5人で合計62勝と、チームの勝利数(88勝)の7割程度を占めた。しかしこの5人以外の先発投手の勝利がほとんどなく、不祥事で出場できなかったユン・ソンファンの代役の不在が韓国シリーズの敗因のひとつとなった。これまで4連覇と完成されたチーム故に新陳代謝が進まず、チーム全体に若さが足りなかった。
 リリーフ陣では左不足の中、30歳でプロ12年目だがこれまで目立った存在ではなかったパク・クンホンがチーム最多の68試合に登板で貴重な働きを見せた。リリーフ陣ではアン・ジマンが中継ぎの柱、39歳のイム・チャンヨンが守護神として活躍したが、この2人を不祥事で欠いた韓国シリーズではユン・ソンファンと同様にその代役となる選手がおらず、一度流れが相手に傾きかけた試合を取り戻すことができなかった。22歳ながらサイドハンドの中継ぎで61試合に登板したシム・チャンミンに今後大きな期待がかかる。
 
 2015年シーズンのサムソンでは、チーム打率が10チーム中1位の.302を記録した打線が強く印象に残った。チーム得点(805)、本塁打数(176)、盗塁数(157)は10チーム中2位と高い攻撃力を誇っていた。その中心となったのは、外国人選手のシーズン本塁打数(48)・打点(137)を更新したナバーロだった。盗塁も22でセカンドの守備も軽快と攻走守すべてにおいてチームに絶大な貢献をしていた。また4番を務めたチェ・ヒョンウ(33本塁打・123打点)、自己最高の成績を残したパク・ソンミン(26本塁打・116打点)と、100打点以上の選手が3人と他チームの脅威となっていた。他にも精神的支柱のイ・スンヨプ(26本塁打・90打点)、新人だった2001年以降15年連続で100安打以上を記録するパク・ハニなど、経験豊富な選手たちは健在で公式戦5連覇にふさわしい陣容だった。
 球団史上初の60盗塁以上で2015年シーズン自身初の盗塁王となったパク・ヘミン、2014年盗塁王のショートのキム・サンスなど、1990年生まれの2人のセンターラインが今後のチームの中軸となっていくのは確実だ。他には116試合に出場し、内外野のユーティリティープレイヤーとして活躍した22歳の若手ク・ジャウクは見事新人王を受賞し、新たなチームの顔になる可能性を見せた。自己最多の124試合に出場し、.380と高い盗塁阻止率で正捕手の座をつかんだイ・ジヨンの成長で、これまで7度の韓国シリーズ優勝に貢献してきた41歳のベテラン捕手チン・ガビョンは現役引退を決意した。



3. 【オフシーズンの動向】
 韓国シリーズ5連覇を逃した最大の要因となった海外不法賭博事件にかかわった選手のうち、39歳のイム・チャンヨンは2016年保留選手名簿から外れ退団した。さらにKBO(韓国野球委員会)から今後韓国プロ野球のチームと契約した場合、最初のシーズンは公式戦開幕から50%に相当する試合数の出場停止という処分も下された。残りのユン・ソンファン、アン・ジマンについては1月21日現在、司法当局による捜査中で処分などは下っていない。
 2016年FA(フリーエージェント)選手のうち、39歳のイ・スンヨプは2年契約で残留となりサムソンで現役を終える可能性が高まった。しかし30歳と働き盛りのパク・ソンミンはライバルのNCへと移籍してしまった。さらに2014年から活躍してきたナバーロも再契約の交渉が決裂し、日本プロ野球千葉ロッテへと移籍した。韓国シリーズ4連覇に貢献した2人の主力打者の穴は大きく、日本プロ野球で活躍していた2016年シーズンの新外国人選手アーロム・バルディリス内野手(元横浜DeNA)に期待がかかる。
 韓国シリーズで打たれるなどシーズン後半勝てなかったフィガロ、クロイドの両外国人投手との再契約を見送り、新外国人投手としてメジャーリーグベースボール(MLB)の25歳の有望株アレン・ウェブスター、MLB通算8勝の右腕コリン・バレスターと契約した。だが王座奪回、新たな黄金時代創造のためにはプロ野球界全体に言えることだが、若い先発投手の育成が急務である。


 2015年シーズン、予想もできなかった事態で突如王座から転げ落ちてしまったサムソンライオンズ。2016年シーズンより新本拠地・大邱サムソンライオンズパークへ移転する。自然に囲まれた最新式のボールパークで気分を一新し8度目の韓国シリーズ優勝へ向けて生まれ変わることができるか、2011年以降サムソンを率いるリュ・ジュンイル監督の手腕が問われる。


(文責:ふるりん