DAILY KOREAN PRO BASEBALL 2

1982年に発足し、2024年時点で10球団が加盟する韓国野球委員会(KBO)による韓国のプロ野球リーグ(通称KBOリーグ)に関するブログ。レギュラーシーズン、ポストシーズン(韓国シリーズなど)の試合速報や球団別の情報、現役プロ選手が含まれる野球韓国代表が出場する国際大会の情報などもお伝えします。 twitter : @kbodigest

  第9回 サムソンライオンズ

「新本拠地での暗黒の1年」 
2016年成績 : 65勝78敗1分(公式戦9位)
チーム総合採点…15点


1. 【新本拠地での苦闘の日々】
 2016年シーズンは下位争いから抜け出せず誰もが予想しなかった9位に終わったサムソンライオンズ。その戦いを振り返りたい。

 2015年に3名の投手のグラウンド外の不祥事が足を引っ張ったか、史上初となる韓国シリーズ5連覇を逃してしまうと最強の名をほしいままにしたチームから戦力の流出が相次いだ。まずはその戦犯の一人とされてしまったイム・チャンヨン(元東京ヤクルト)、FA(フリーエージェント)でNCへ移籍したレギュラー三塁手パク・ソンミン、2015年は48本塁打を記録し日本プロ野球千葉ロッテへ移籍した外国人打者ナバーロなどがチームをさった。急速な弱体化は誰の目にも明らかであったが、地力のあるチームだけに上位には残るのではないかと意見も根強かった。開幕前にはチェ・テインをネクセンにトレードし、中継ぎ要員のキム・デウを獲得して弱点の補強に務めた。

 そして2016年シーズンは大邱広域市の東部に開場した最先端の野球場・大邱サムソンライオンズパークを新本拠地とすることで、大いに注目を集めていた。4月1日、新本拠地最初の公式戦となったトゥサンとの開幕戦は1回裏、チームの精神的支柱であるイ・スンヨプ(元オリックス)が大邱サムソンライオンズパークでの初打点を記録し先制したが、先発チャ・ウチャンが打たれ1-5と敗れた。翌2日のトゥサン戦で新本拠地初勝利を記録した。2015年の不祥事により公式戦の出場が危ぶまれた先発投手のユン・ソンファン、リリーフのアン・ジマンも4月上旬に一軍へ合流し、万全の体制で長いシーズンを戦えるかと思われた。
 しかし4月後半から勝率5割に届かず苦戦が続いた。4月28日のハンファ戦で、8回裏に5-2と3点リードの場面で登板したアン・ジマンが連打を浴び、一気にこの回だけで8点を奪われ逆転負けを喫するなど、以前ではありえない試合展開が目立ち、キム・サンスなど主力選手の離脱もあり5月になっても勝率5割が遠かった。5月14日、本拠地でのロッテ戦は両チームともにオールドユニフォームを着用して盛り上げたが、1982年のプロ野球創設以来チーム名や本拠地の都市(ロッテは釜山広域市)を変更していない両チームは、公式戦最終戦まで熾烈な下位争いを続けファンたちを落胆させてしまった。
 開幕前に補強した3人の新外国人選手たちも機能しなかった。4月に3試合だけ登板し未勝利の投手バレスターは5月半ばに退団し、内野手バルディリス(元横浜DeNA)も負傷で5月上旬から長期戦線離脱となった。ウェブスターは4月こそ安定していたが、5月になると成績が悪化し4勝はしたが6月前半から戦線を離脱した。5月後半、新外国人投手レオンと契約したが、韓国初登板の5月26日のキア戦で5回8失点と最悪の内容に終わると、その後1試合しか登板せず全く戦力にならなかった。
 試合を重ねるにつれ首位争いをするトゥサンやNCとの差は開く一方だった。外国人投手があてにならない中、6月11日のキア戦で29歳のキム・ギテが一軍での先発初勝利と救世主になるかと思われたが、好調は長続きしなかった。主砲チェ・ヒョンウは好調で個人タイトル争いに加わっていたがチームは下降線をたどる一方で、6月22日のネクセン戦で4連敗となり7位に後退し、勝率は4割台前半にまで落ち込んだ。6月28日から30日のロッテ3連戦ではまず28日にアン・ジマン、翌29日にシム・チャンミンが、そしてとどめに30日にペク・チョンヒョンが打たれ3試合連続サヨナラ負けと、底の見えない泥沼にはまっていった。
 このような最悪のムードの中、7月1日から3日まで3試合連続中止と恵みの雨が降った。梅雨の晴れ間の7月5日、本拠地・大邱でのLG戦でユン・ソンファンが好投するとベテランのイ・スンヨプ、パク・ハニも本塁打を放って勝利し連敗から脱出した。しかし本当の地獄が待っていた。7月10日のハンファ戦で敗れると、開幕から80試合を過ぎた時点でチーム史上初となる最下位(2014年以前のプロ野球が9チーム以下だった時期も含む)に転落してしまった。
 7月11日、まだ残っている上位進出への望みをつなぐため、ウェブスターを退団させ新外国人投手フランデと契約した。7月12日のロッテ戦に勝利し最下位からはすぐ脱出したが、9位にとどまり続けた。7月21日にはアン・ジマンがインターネットの違法賭博サイト運営に関与していたことが発覚し、結局退団となり低迷するチームに追い打ちをかけた。7月25日のKT戦でフランデが韓国初登板で初勝利を記録したが、浮上のきっかけにはならなかった。
 7月に一軍へ復帰したバルディリスも8月上旬にはまた故障で戦線を離脱し、復帰することなく韓国を去った。9位から抜け出せない中、チームよりもベテラン選手の偉大な記録に注目が集まった。8月19日のKT戦でチェ・ヒョンウが自身初のサイクルヒット、8月24日のSK戦でイ・スンヨププロ野球新記録となる個人通算1390打点、9月7日のKT戦でイ・スンヨプが個人通算2000安打(ともに韓国のみでの記録)、翌8日のロッテ戦でパク・ハニが個人通算2000安打をそれぞれ達成し、下位争いにとどまるチームに明るい話題を提供した。
 9月11日のハンファ戦で3連勝とし、久しぶりに8位へ浮上した。だが勢いには乗れずハンファ、ロッテとのどんぐりの背比べというべき7〜9位争いが続いた。9月27日のNC戦で主砲チェ・ヒョンウが3年連続30本塁打を記録し4連勝で7位浮上と、5位キアとのゲーム差が3まで縮まり、公式戦5位以上のポストシーズン進出へ向けて最後の猛反撃に出ようとした。
 だが9月29日、NCとのダブルヘッダー2連戦で連敗すると翌30日には9位に後退してしまい、10月3日のLG戦で敗れ3連敗となり、2009年以来7年ぶりにポストシーズン進出に失敗してしまった。2016年シーズン最後の公式戦となった10月8日のSK戦でも敗れロッテと同率8位だったが、翌9日にロッテが公式戦最終戦のネクセン戦に勝利したため、サムソンはまさかの単独9位とチーム史上最低の順位(2015年以前の最低の順位は1996年の6位)で新本拠地での初のシーズンを終えた。


2. 【チーム分析】
 チーム成績を見ると、投打ともに力が落ちていたのがわかる。特に投手陣の弱体化が目立った。

 チーム防御率5.83は10チーム中8位で、韓国シリーズ4連覇を支えた投手陣が明らかに劣化した。クォリティースタート(先発として6回以上登板し自責点は3以下)は同6位の49と先発投手陣は比較機能していたかに見えた。チーム最多勝の左のエース格チャ・ウチャン(12勝)、右のエース格ユン・ソンファン(11勝)が先発陣の中心となったが、外国人投手4人のうちウェブスターが4勝、フランデが2勝でバレスター、レオンは未勝利と、合計でたった6勝だったのが響き、他の韓国人投手も先発としてシーズンを通した活躍ができず、上位進出に必須の5連勝以上の連勝ができなかった。33歳の左腕チャン・ウォンサム(5勝)、25歳の右腕チョン・イヌク(4勝)が期待に応えられなかった選手としてあげられる。また若手の台頭も見られなかった。
チームホールド数69、チームセーブ数は10チーム中5位だった。だがプロ野球史上個人通算最多ホールドの鉄腕アン・ジマンが不祥事でチームを去った影響は少なくなく、終盤で試合の流れを変えられる投手がいなかった。リリーフの柱は23歳で自己最多の25セーブを記録したシム・チャンミンだった。中継ぎ陣はチーム最多登板(70試合)の左腕ペク・チョンヒョン(6勝9ホールド)、アンダーハンドの右腕キム・デウ(67試合・6勝11ホールド)が軸となった。他には左腕パク・クンホン(60試合)、MLB傘下のマイナーリーグやオーストラリアを渡り歩いたチャン・ピルジュン(56試合)などがリリーフで起用されたが、比較的防御率が高く安定感を欠いていた。その中では36歳の右サイドハンドのクォン・オジュンが41試合に登板し、比較的内容も安定し健在をアピールした。

 チーム打率.293は10チーム中3位、チーム本塁打数142は同5位、チーム得点数858は同3位と上位チームに見劣りしていなかったが、主力打者の流出により韓国シリーズ4連覇のころの圧倒的な破壊力はなく、打ち勝つ野球が思うようにできなかった。
 打線の中心は首位打者打点王の個人タイトル二冠(.376・31本塁打・144打点)を獲得したチェ・ヒョンウであった。また個人通算2000安打を達成したイ・スンヨプも40歳を超えて健在で、27本塁打・118打点と存在感を示した。また同じく2000安打を達成した37歳のパク・ハニも、110試合に出場しプロ1年目から16年連続100安打以上を記録と安定感を維持した。20代の選手では一塁を中心に内外野を守り108試合で打率.348を記録した23歳のク・ジャウク、61盗塁で2年連続盗塁王に輝いた26歳のパク・ヘミン、28歳にして二塁のレギュラーに定着し132試合に出場したペク・サンウォンなどが主力として活躍した。
 一方で近年ショートのレギュラーとして活躍していた26歳のキム・サンスが故障などで106試合出場にとどまるなど精彩を欠いた。期待に応えられなかったバルディリスの代わりに三塁を守ることが多かった33歳のチョ・ドンチャンは、2006年以来10年ぶりとなる10本塁打を記録し復活を遂げた。2015年限りで引退したチン・ガビョンの代わりに正捕手となったのは30歳のイ・ジヨンで、129試合に出場し7本塁打、50打点と打撃でも成長を見せた。
 控え野手としてはキム・ジェヒョン、イ・ヨンウクが起用されることが多かった。なお、主力の流出で野手の層が薄くなったためか代打の打率が.221と10チーム中9位と低く、終盤に流れを変えられる選手がいなかったのが下位争いを続けた要因の一つと思われる。
 
 打線が得点をあげても心もとないリリーフ陣がそれを守り切れず、終盤競り負けるか逆転負けを喫することが目立ち、大邱サムソンライオンズパークの幕開けとなった2016年シーズンは、最後まで強さを感じさせることがないままで終わってしまった。


3. 【オフシーズンの動向】
 3年の契約期間が切れたリュ・ジュンイル監督は退任し、サムソンの主力打者として2002年の初優勝など3度の韓国シリーズ優勝に貢献したキム・ハンス新監督が就任し、巻き返しを図ることにした。その手始めとしてトゥサンで内野のユーティリティープレイヤーのイ・ウォンソク、またLGの先発投手陣で活躍していたウ・ギュミンのFA選手2名と契約し補強に務めた。
 しかしまたもや主力選手が流出した。韓国シリーズ4連覇に貢献した主砲チェ・ヒョンウがキア、左腕エースのチャ・ウチャンがLGへと、失ってはならない投打の主軸がFAで移籍してしまったのである。また貴重な控え捕手のイ・フンニョンがイ・ウォンソクのFA人的補償としてトゥサンへ移籍してしまった。外国人選手は3名とも入れ替えとなり、アンソニー・ラナウド、ザック・ペトリック(元横浜DeNA)の2名の投手と契約したが、チェ・ヒョンウの穴を埋める期待がかかる新外国人打者とは2月10日現在も契約に至っていない。

 
 2011年から2014年までその強さを存分に見せつけ、プロ野球史上に残る韓国シリーズ4連覇の偉業を達成してからたった2年余りでチーム史上最悪のシーズンを送ってしまった。あっという間の転落については、一部の主力選手の不祥事、相次ぐ選手の移籍だけでなく世代交代が思うように進んでいなかったことなど様々な要因が指摘されているが、栄枯盛衰は世の常である。キム・ハンス新監督には焦って結果を出すよりも、多少の時間はかかれども7度の韓国シリーズ優勝(1985年も含めると年間総合優勝8回)の栄光に恥じない完成度の高いチームを築き上げてほしい。

(文責:ふるりん