DAILY KOREAN PRO BASEBALL 2

1982年に発足し、2024年時点で10球団が加盟する韓国野球委員会(KBO)による韓国のプロ野球リーグ(通称KBOリーグ)に関するブログ。レギュラーシーズン、ポストシーズン(韓国シリーズなど)の試合速報や球団別の情報、現役プロ選手が含まれる野球韓国代表が出場する国際大会の情報などもお伝えします。 twitter : @kbodigest

  2009年 ポストシーズン ダイジェスト

 
 2009年のプロ野球ポストシーズンは、準プレーオフ(4試合)、プレーオフ(5試合)、韓国シリーズ(7試合)の合計16試合で41万262名が入場し、ポストシーズン史上最多の観客数を記録した。特に全試合入場券が完売となった韓国シリーズは、毎試合のように開始何時間も前から当日券を求めて長蛇の列ができ、チケットの入手は非常に困難であった。かつてないほど盛り上がった2009年ポストシーズンの激闘を振り返りたい。


プレーオフ:トゥサン−ロッテ

 3年連続の韓国シリーズ進出を狙う公式戦3位のトゥサンと、2年連続でポストシーズン進出に成功し、今度こそはプレーオフ進出を狙う同4位ロッテとの対決は、京釜線シリーズ(ソウルと釜山を結ぶ鉄道の幹線に由来する)として注目を浴びた。
   
 トゥサンの本拠地、ソウル・蚕室野球場での第1戦(9月29日)は、先発の最多勝投手チョ・ジョンフンの好投と、終盤の打線の奮起で7−2とロッテが制した。第2戦(30日)は先発クム・ミンチョルが好投し、キム・ヒョンスの2試合連続本塁打などで6−0と完封勝ちし、ポストシーズンの経験が豊富で戦力的にも上回るトゥサンが本領を発揮し始めた。
 舞台をロッテの本拠地、釜山・社稷野球場に移した第3戦(10月2日)は、韓国では秋夕(チュソク、日本の旧盆に相当)の連休期間に当たり、デーゲームで実施された。トゥサンはキム・ドンジュの満塁本塁打などで序盤で大量リードを奪うと、ロッテに強い先発ホン・サンサムの好投と、相手の守備の乱れもあり12−3で大勝し、プレーオフ進出に王手をかけた。第4戦(3日)は前日の大敗に落胆し地元釜山のファンたちがトーンダウンしたのか入場券は完売とならず、ロッテはイ・デホ本塁打で1点を先制したものの、守備の乱れもあり3回表7点を奪われ逆転されると、9−5でトゥサンが3連勝し3年連続のプレーオフ進出を決めた。
 トゥサンは主砲キム・ドンジュが絶好調でMVPを受賞し、投打と守備ともにすべての面でロッテを上回っていた。2007年まで7年連続ポストシーズンに進出できず経験値で下回るロッテは、サムソンに緒戦から3連敗を喫し敗退した2008年準プレーオフの時と、1年間でたいした進歩がなかったことを露呈してしまい、熱狂的な釜山の野球ファンたちはまたもや厳しい現実を思い知った。


プレーオフ:SK−トゥサン

 韓国シリーズ3連覇を狙っていたが、公式戦ではキアの後塵を排し2位に終わったSKと、準プレーオフ勝者のトゥサンは、2007,08年と韓国シリーズで対戦し、ともにSKが勝ち韓国シリーズ2連覇を達成していた。3度目の正直を誓うトゥサンにとっては、負けられない因縁の宿敵であり、SKはキム・グァンヒョン、ソン・ウンボムなどの主力投手を欠き苦しい状況であった。
 SKの本拠地、仁川・文鶴野球場での第1戦(10月7日)は、トゥサンがコ・ヨンミンの本塁打などで3点をリードし、SKもパク・チョングォンの2ランで追い上げたものの、トゥサンが3−2で接戦を制した。第2戦(8日)はトゥサンの先発セデーニョ、SKの先発門倉(元読売)の投手戦となったが、8回表イ・ジョンウクのタイムリー、コ・ヨンミンの2ランで3点をリードしたトゥサンが4−1で勝利し、韓国シリーズ進出に王手をかけ、今度こそ宿敵を倒すかと思われた。
 舞台をトゥサンの本拠地、ソウル・蚕室野球場に移した第3戦(10日)は、SKが1点を先制したが追加点を奪えず、6回裏同点に追いつかれると、試合は1−1のまま延長戦となった。延長10回表不振だったパク・チェサンのタイムリーなどで2点を勝ち越したSKが3−1と勝利し、反撃ののろしをあげた。第4戦(11日)はSKが2回までに3点を先制したが、トゥサンはコ・ヨンミンの3ランで追いついた。SKはその後のピンチをしのぐと、7回表絶好調パク・チョングォンのタイムリーなどで4点を勝ち越し8−3で勝利し、勝負は第5戦までにもつれ込んだ。
 舞台を再び文鶴野球場に移した第5戦(13日)は、トゥサンが1点を先制したものの2回途中で雨が強くなりノーゲームとなった。翌14日に順延され仕切りなおしとなったところ、SKは1回表トゥサンの先発セデーニョから3点を先制すると、その後集中力の切れたトゥサン投手陣から合計5本塁打と強力打線が本領を発揮、14−3で大勝し3連勝で3年連続の韓国シリーズ進出を決めた。戦力的に苦しいにもかかわらず後がない第3戦以降勝ち続け選手層の厚さを見せつけたSKと、勢いのある若い選手が多いもののここ一番で頼りになるベテランがいないこともあり詰めが甘すぎるトゥサンとの姿は、あまりにも対照的であった。プレーオフMVPは、左の大砲として覚醒したパク・チョングォンが受賞した。



韓国シリーズ:キア−SK

 7月後半から勢いに乗り、公式戦優勝で1997年以来12年ぶりの韓国シリーズ優勝を狙うキアと、キアの前身ヘテ以来となる韓国シリーズ3連覇を狙うSKとの韓国シリーズは、例年にない実力伯仲の対決として大いに注目を浴びた。特に久しぶりの快進撃に酔ったキアファンたちは、韓国シリーズ史上最多の9度の優勝を達成したヘテの栄光を思い出したかのように、本拠地・光州でも敵地・仁川でも大挙して応援に駆けつけた。SKはプレーオフと同様、キム・グァンヒョン、チョン・ビョンドゥの主力投手2人を欠き劣勢に立たされていた。

 光州での12年ぶりの韓国シリーズ開催となる第1戦(10月16日)は、SKがキアの先発ロペスから2点を先制し、門倉も好投したが、ヘテ時代の栄光を知るチームの精神的支柱イ・ジョンボム(元中日)の2本のタイムリーもあって、キアが5−3で接戦を制した。第2戦(17日)はキアの先発ユン・ソンミン、SKの先発ソン・ウンボムの投手戦となり、チェ・ヒィソプの2本のタイムリーでキアが2−1と接戦を制し、2連勝と好スタートを切った。
 舞台をSKの本拠地、仁川・文鶴野球場に移した第3戦(19日)は、SKがキアの先発ガトームソン(元福岡ソフトバンク)を攻略し、パク・チョングォンの本塁打などで序盤で大量リードを奪い、キアも終盤本塁打、打点の2冠王キム・サンヒョンの3ランなどで反撃したがSKの先発グローバー(元読売)に抑えられ、11−6でSKがシリーズ初勝利をあげた。第4戦(20日)はSKがパク・チェホンの2ランなどでリードし、先発チェ・ビョンニョンも好投した。キアも粘り強く9回表1点差まで迫ったが、SKが4−3で逃げ切り2勝2敗とした。

 舞台を中立地のソウル・蚕室野球場に移してからは、創設10年目と歴史の浅いSKよりも、光州や全羅道出身者の熱い声援を受け悲願の優勝を願うキアのファンのほうが大勢を占めるようになった。第5戦(22日)は打撃不振のイ・ヨンギュの執念のバントと、最多勝投手ロペスの完璧な投球もあり、3−0で完封勝ちしキアが韓国シリーズ優勝に王手をかけた。第6戦(23日)はSKがキアの先発ユン・ソンミンから3点を先制し、先発ソン・ウンボムも好投した。キアは8回表チェ・ヒィソプのタイムリーで1点差に迫ったが、SKが3−2で接戦を制し、決着は第7戦までもつれ込んだ。 

 最高の盛り上がりを見せる韓国シリーズ第7戦(24日)は、歴史に残る名勝負となった。SKが4回表キアの先発ガトームソンからパク・チョングォンの2ランで先制すると、5回表にもキアの2番手ハン・ギジュの判断ミスもあって1点を追加した。キアは5回裏SKの先発グローバーからアン・チホンのタイムリーで1点を返したが、SKは6回表2点を追加し5−1とリードを広げ、勝負はあったかに思われた。
 しかし本当のドラマはここから始まった。SKはここまでキアと互角の勝負を繰り広げていたが、プレーオフから続いた激戦によりSK特有の小刻みな継投を強いるリリーフ陣は誰もが明らかに疲れていて、ストライクが入らなくなり球威も落ちていた。キアは6回裏イ・スンホからナ・ジワンの2ランで3−5と2点差に追い上げ、7回裏門倉からアン・チホンの本塁打で4−5と1点差とした。さらにこの回チョン・ウラムからキム・ウォンソプのタイムリーでついに5−5の同点に追いつき、試合はまったくわからなくなった。キアは8回ロペス、9回表守護神ユ・ドンフンを投入し勝ち越し点を許さず、両チームまさに総力戦となった。
 そして9回裏、SKは第6戦キアの反撃を断ったチェ・ビョンニョンをマウンドに送った。しかしキアの勢いはとまらず、ナ・ジワンがこの試合2本目となる本塁打をレフトスタンドへ叩き込み、6−5でサヨナラ勝ちし劇的な幕切れで、キアが12年ぶり10度目の韓国シリーズ優勝を決めた。戦力的に苦しい中一歩も引かず戦い続けたが、韓国シリーズ3連覇を逃したSKは神がかり的なキアの勢いの前に屈し、名将キム・ソングン監督は今後の巻き返しを誓うしかなかった。
 
 歴史的に中央政府から差別的待遇を受けてきた韓国南西部・全羅南道や光州の人々にとって、1982年の韓国プロ野球出発以降、数少ない誇りを持てて溜飲を下げられるものがヘテタイガースであった。2001年経営難でキアに球団が売却されてから、1度も韓国シリーズに進出できず近年は低迷が続いていたが、ロペス、ガトームソンの両外国人、ユン・ソンミン、ヤン・ヒョンジョンの若き投手たちによる最強の先発陣、チェ・ヒィソプとキム・サンヒョンの左右の大砲、精神的支柱のイ・ジョンボム、正捕手キム・サンフンなど経験豊富な選手たち、韓国シリーズMVPを受賞したナ・ジワン、若干19歳のアン・チホンなど伸び盛りの若手野手などの活躍で、12年ぶりの韓国シリーズ優勝をつかんだ。久々の快挙に145万の光州市民は大いに沸き祝杯をあげ、市内の随所にキアの優勝を祝う横断幕がかかり、祝賀行事も予定されているという。チョ・ボムヒョン監督の下、今後新たな黄金時代を築くことをファンたちは期待している。

 2008年の北京五輪野球優勝に続く、開幕前のWBC(ワールドベースボールクラシック)準優勝と韓国代表の快進撃に始まった2009年シーズンは、キアの史上最多となる10度目の韓国シリーズ優勝という偉業で幕を閉じた。1990年代前半以上の黄金時代を迎えつつある韓国プロ野球は、更なる野球ファンの拡大と野球文化の振興に向け、2010年代以降も国内最高のプロスポーツとして、隆盛を極めんとしている。
  
(文責 : ふるりん