DAILY KOREAN PRO BASEBALL 2

1982年に発足し、2024年時点で10球団が加盟する韓国野球委員会(KBO)による韓国のプロ野球リーグ(通称KBOリーグ)に関するブログ。レギュラーシーズン、ポストシーズン(韓国シリーズなど)の試合速報や球団別の情報、現役プロ選手が含まれる野球韓国代表が出場する国際大会の情報などもお伝えします。 twitter : @kbodigest

2020年東京オリンピック野球 韓国代表 展望

 

 2020年東京オリンピック野球は1年延期され2021年7月28日、オープニングラウンドグループA:日本-ドミニカ共和国でその幕を開けた。野球韓国代表は7月29日のオープニングラウンド:グループBから出場し、28日、キム・ギョンムン韓国代表監督はアメリカ合衆国代表のマイク・ソーシア監督、メキシコ代表のベンジー・ギル監督、イスラエル代表のエリック・ホルツ監督と共に横浜市役所での記者会見に出席した。

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2020年東京オリンピック野球記者会見(横浜市役所) https://sports.news.naver.com/news?oid=001&aid=0012559930

 野球韓国代表は2019 WBSCプレミア12で準優勝、開催国日本を除くアジア・オセアニア地区最上位だったため2020年東京オリンピック野球の出場権を得た。しかしまさかの1年延期で野球韓国代表のチーム作りはいったん停止した。2021年3月22日、2020年シーズンの成績や将来性を考慮して事前登録名簿が発表され、2021年シーズンの成績を参考に6月16日、事前登録名簿から最終エントリーの24名が発表された。

 当初2021年シーズンは7月18日まで試合が行われ、7月19日からオリンピック野球韓国代表の準備が始まる予定だった。しかし、7月上旬に複数の球団でPCR検査の陽性反応者が出て、7月13日から18日の全試合が延期となり、一部の選手は感染拡大防止に対する社会的規範を守らなかったため出場停止などの厳しい処分を受けた。その中に含まれていた当初オリンピック野球韓国代表に選ばれていた2名の選手は出場を辞退し、代役としてオ・スンファン(サムソン)など2名の投手が選ばれた。こうした中オリンピック野球韓国代表は7月17日より高尺スカイドームで練習を開始し、7月23,24,25日に尚武、LGツインス、キウムヒーローズとの練習試合で調整を終え、7月26日に開催国・日本へ入国した。

 

 ここでオリンピックと野球韓国代表の歴史を振り返ってみる。1984ロサンゼルスオリンピックが初出場で、自国開催だった1988年ソウルオリンピックも含め1996年アトランタオリンピックまでプロ選手の出場が認められず、韓国代表はさしたる成績を残せなかった。しかし2000年シドニーオリンピックからプロ選手の出場が認められるようになると、プロ野球のシーズンを中断して一流プロ選手が主体となった野球韓国代表が構成され、3位という結果を残した。その背景にはオリンピックで3位以上になると軍に入隊していない選手は兵役免除の恩典が受けられることがあった。

 次の2004年アテネオリンピックはアジア予選に相当する2003年アジア野球選手権で3位に終わり出場権を逃してしまった。そして2大会ぶりに出場した2008年北京オリンピックでは予選リーグ7試合、準決勝、決勝と9試合全勝で初優勝と最高の結果を残した。その翌年の2009 WBCワールドベースボールクラシック)の準優勝とあいまって、韓国のプロ野球人気は急上昇し、その結果2010年代には8球団から10球団とプロ野球の規模自体が拡大した。

 2012年ロンドン、2016年リオデジャネイロとオリンピックで野球競技は実施されなくなったが、2020年東京オリンピックでは3大会ぶりに実施されることになり、野球韓国代表も2連覇を目指してチーム作りを進めてきた。当初はソン・ドンヨル監督が率いることになっていたが、2018年アジア競技大会終了後に辞任し、2008年北京オリンピックで優勝に導いたキム・ギョンムン監督が再び就任し、2019 WBSCプレミア12でメキシコと共に2020年東京オリンピック野球出場権を獲得した。

 

 オリンピック野球優勝の栄光から13年が過ぎ、2008年北京オリンピックで先発の柱となり現在はMLBで活躍するリュ・ヒョンジン、キム・グァンヒョンのような大型左腕は2020年オリンピック野球韓国代表チームにはいない。また、2008年北京オリンピックの準決勝、決勝で試合を決める本塁打を放ったイ・スンヨプのような圧倒的な存在感のある打者もいない。だがオリンピックだけでなくWBCアジア競技大会、WBSCプレミア12など国際大会を経験した選手たちがチームの軸となり、今後の韓国代表を担うような若き才能も出現している。また、3位以上になれば軍へ入隊していない選手はこれまでのオリンピックのように兵役免除の恩典を受けられると思われるため、最高の動機付与になる。

 

 韓国代表の戦力の紹介について、まずは投手についてである。

 試合の命運を握る先発投手としては、まず2021年シーズン、リーグ最多の10勝を記録した21歳の若き右腕ウォン・テイン(サムソン)の名前があがる。すでに7月29日、韓国代表の初戦となるオープニングラウンドグループB:イスラエル戦の先発が発表されている。その他所属チームで先発を任されている選手としては右腕のコ・ヨンピョ(KT)とチェ・ウォンジュン(トゥサン)、キム・ミヌ(ハンファ)、パク・セウン(ロッテ)、そして高卒新人左腕イ・ウィリ(キア)があげられ、7月31日のアメリカ合衆国戦、そして8月1日以降の試合ではこの中から先発投手が選ばれると思われ、試合展開によってはロングリリーフでの起用も考えられる。

 リリーフ陣では39歳ながらリーグ最多の27セーブを記録するオ・スンファン(サムソン)が抑えを任されると思われる。2008年北京オリンピックにも出場し、2013~2014年、阪神タイガースに所属していたため開催国・日本に慣れているのが他の選手にない利点である。その他コ・ウソク(LG)、チョ・サンウ(キウム)と所属チームでは抑えを任されている選手が控え、左のリリーフとしては国際大会の経験が豊富なチャ・ウチャン(LG)、高卒新人ながら抜擢されたキム・ジヌク(ロッテ)が起用されると思われる。試合展開によっては先発を早めに降板させて継投で勝利を拾っていくことも可能な陣容である。

 

 次に野手についてである。

 打線の軸として期待されているのが21歳のカン・ベッコ(KT)で、リーグ最高の打率.395を記録し4番打者を任されると思われる。10本塁打と長打力もあり勝負所での一発も期待できる。他にはリーグ最多タイの20本塁打、71打点を記録しているヤン・ウィジ(NC)も中軸を任されると思われるが、ポジションは捕手であるため、2008年北京オリンピックに出場したカン・ミンホ(サムソン)が捕手として出場し、ヤン・ウィジは指名打者として打撃に専念することも考えられる。

 注目すべき打者としては22歳のイ・ジョンフ(キウム)があげられる。2018年アジア競技大会、2019 WBSCプレミア12などの国際大会で主軸を任され経験が豊富であり、2021年シーズンもこれまで打率.345と高い打撃技術でヒットを量産している。キム・ギョンムン監督が得意としている足を使った作戦の中心となるのはリーグ盗塁1位(29個)のキム・ヘェソン(キウム)、2位(28個)のパク・ヘミン(サムソン)であり、イ・ジョンフとともにチャンスメイカーとなり、カン・ベッコ、ヤン・ウィジなどが走者を返す得点パターンが想定される。また2008年北京オリンピックに出場したキム・ヒョンス(LG)、また2017 WBCと2019 WBSCプレミア12に出場したパク・コヌ(トゥサン)なども国際大会の経験が豊富でそれが生きる場面が訪れると思われる。

 守備の面では三遊間を守ると思われるホ・ギョンミン(トゥサン)、オ・ジファン(LG)の働きが重要になり、2014年アジア競技大会以降の国際大会の経験が豊富なファン・ジェギュン(KT)も三塁の守備に定評がある。33歳のチェ・ジュファン(SSG)は二塁、34歳のオ・ジェイル(サムソン)の2人の内野手は30代にして初の国際大会出場であるが、トゥサン時代に3度の韓国シリーズ優勝に貢献するなど大舞台に慣れている点を考慮したと思われる。

 

 2020年東京オリンピック野球の韓国代表は圧倒的な戦力を有する優勝候補とは言えない。だが、プロ選手主体の野球代表チームを構成してきた韓国は過去の大会の経験を十分に生かすことができる。キム・ギョンムン監督は守備重視の選手起用で臨むと思われ、出場は6チームだけとはいえ、その分チーム間の実力差が小さく拮抗した戦いが予想される2020年東京オリンピック野球において、野球韓国代表は過去の栄光を再現するだけでなく、次代を担う若い選手たちにも刺激を与え成長に寄与する存在であり続けてほしい。

 まずは初戦、2017 WBCワールドベースボールクラシック)1次ラウンドで敗れたイスラエル相手に勝利し、8月7日の決勝進出に向けて弾みをつけたい。イスラエル代表はMLBで活躍し2017 WBCアメリカ合衆国代表として優勝に貢献したイアン・キンズラー、同じくMLBで活躍したダニー・バレンシアなどの野手や、2017 WBCで韓国代表を抑えたジョシュ・ザイードなどの投手がそろう難敵である。

 

2020年東京オリンピック野球オープニングラウンド:グループB】

(会場はすべて横浜スタジアム

7月29日19時 : イスラエル-韓国

7月30日19時 : アメリカ合衆国イスラエル

7月31日19時 : 韓国-アメリカ合衆国

 

2020年東京オリンピック野球韓国代表】

[投手]

チェ・ウォンジュン(トゥサン)、コ・ヨンピョ(KT)、コ・ウソクチャ・ウチャン(以上LG)、チョ・サンウ(キウム)、※ イ・ウィリ(キア)、パク・セウン、※ キム・ジヌク(以上ロッテ)、オ・スンファンウォン・テイン(以上サムソン)、キム・ミヌ(ハンファ)

 [捕手]

ヤン・ウィジ(NC)、カン・ミンホ(サムソン)

一塁手

カン・ベッコ(KT)、オ・ジェイル(サムソン)

二塁手

チェ・ジュファン(SSG)

三塁手

ホ・ギョンミン(トゥサン)、ファン・ジェギュン(KT)

[遊撃手]

オ・ジファン(LG)、キム・ヘェソン(キウム)

[外野手]

パク・コヌ(トゥサン)、キム・ヒョンス(LG)、イ・ジョンフ(キウム)、パク・ヘミン(サムソン)

※は2021年の新人選手。