DAILY KOREAN PRO BASEBALL 2

1982年に発足し、2024年時点で10球団が加盟する韓国野球委員会(KBO)による韓国のプロ野球リーグ(通称KBOリーグ)に関するブログ。レギュラーシーズン、ポストシーズン(韓国シリーズなど)の試合速報や球団別の情報、現役プロ選手が含まれる野球韓国代表が出場する国際大会の情報などもお伝えします。 twitter : @kbodigest

  第10回 KTウィズ

「新球団にかけられた魔法」 
2015年成績 : 52勝91敗1分け(公式戦最下位)
チーム総合採点…60点


1. 【新球団の苦悩と成長】
 プロ野球の拡大政策により2013年KTウィズが創設され、2014年は二軍のリーグ戦(フューチャースリーグ)のみ参加し、2015年シーズンより一軍公式戦に参加することで、プロ野球は本格的な10球団制となった。2007年シーズン限りでプロ野球から撤退し解散した現代ユニコーンズがあった首都圏南部の水原総合運動場野球場を本拠地とし、大幅な観客席の増設・施設の改修を行い「水原KTウィズパーク」として生まれ変わらせた。愛称の「ウィズ」とは魔術師を意味する英語の「wizard」などの意味が込められている。
 一軍参入を前にした2014年シーズンオフ、既存の9チームから1人ずつ特別指名としてキム・サンヒョン、イ・デヒョン、チョン・デヒョン、ヨン・ドカンなどを補強した。またLGからパク・キョンス、ロッテからパク・キヒョクとキム・サユルと3人のFA(フリーエージェント)選手を獲得した。2013年から2014年にかけ新人ドラフトで多数の選手を指名したとはいえ、選手層は他チームと比べずっと薄く、SK、キアの監督を務め経験豊富なチョ・ボムヒョン監督と言えども苦労は絶えないのではないかと見られていた。
 
 
 3月28日、敵地・社稷でのロッテとの開幕戦が一軍初の公式戦となった。1回表イ・デヒョンがチーム史上初安打で出塁すると、キム・サンヒョンのチーム史上初打点・初本塁打となる3ランで先制した。キム・サンヒョンがもう1本本塁打を打つなど5回表まで8-2と6点差をつけていたが、先発の新外国人投手アーウィンが5回持たず降板すると、リリーフが打たれ結局9-12で逆転負けとなった。翌29日のロッテ戦も4-5と1点差で敗れた。
 3月31日、本拠地・水原での初の公式戦サムソン戦はまだ寒い夜空の雨が降りしきる中、新外国人野手マルテが活躍したものの6-8で敗れた。その後キア、SK相手にも勝てず、4月10日のネクセン戦で開幕11連敗となってしまった。4月11日木洞でのネクセン戦は先発の新外国人投手オクスプリング(元阪神)、リリーフのチャン・シファンが何とかリードを守り6-4で逃げ切り、記念すべきチーム史上一軍初勝利を12試合目にして記録した。チャン・シファン自身も27歳にしてのプロ初勝利だった。翌12日のネクセン戦はマルテの活躍でこれまたチーム史上初の連勝を記録した。
 だが3勝目がなかなか遠く、4月20日、20歳の期待の若手投手イ・ジュンヒョンを交換要員に、ベテラン捕手ユン・ヨソプ、控え内野手パク・ヨングンとの1対2トレードで獲得した。5連敗後の4月22日のSK戦、先発チョン・デヒョンが早く降板したがチャン・シファンのロングリリーフで2-0とチーム史上初の完封勝利を記録した。これは本拠地・水原での初勝利でもあった。だが4月はこれ以降勝てず、25試合を終えて3勝22敗と絶望的な数字だけ残った。
 5月2日のKT戦に敗れ8連敗となったあと、チームに衝撃が走った。先発として起用されてきたが開幕5連敗だった19歳の若手パク・セウン、リリーフとして起用されてきたイ・ソンミンなど4人の選手の代わりに、ロッテから控え捕手チャン・ソンウ、リリーフ投手チェ・デソン、控え外野手ハ・ジュンホなど5人の選手を獲得した。この5対4トレードはプロ野球史上最大の人数だったが、5月5日のハンファ戦まで10連敗し効果はすぐに出なかった。
 5月6日のハンファ戦で連敗を脱出すると、翌7日のハンファ戦で移籍したばかりのチャン・ソンウの4打点の活躍で連勝した。そして翌8日のLG戦でチーム史上初の3連勝、さらに翌9日のLG戦でキム・サンヒョンの逆転2ランで4連勝となった。だがマルテが負傷で離脱し、2度の延長戦で競り負けるなど5月17日のロッテ戦まで7連敗となってしまった。5月19日、期待の高卒新人オム・サンベクのプロ初勝利で連敗を脱出したもののまた4連敗となった。5月28日のLG戦でチョン・デヒョンが移籍後初勝利をあげ、ようやくシーズン10勝目に到達した。5月は7勝と4月より進歩を見せたが、5月31日で勝率は2割未満と厳しい現実は続いた。
 5月中に先発でもリリーフでも結果を残せなかった外国人左腕投手シスコを退団させ、6月には打線の強化のため新外国人打者ダン・ブラックが加入した。しかし6月2日のSK戦では20失点で4連敗となってしまった。だがマルテが復帰し、6月9日のロッテ戦、ダン・ブラックの韓国初本塁打、ハ・ジュンホの古巣相手の2本塁打などで勝利すると、11日のロッテ戦まで2度目の4連勝となり、敵地・社稷でチーム史上初の同一カード3連戦3連勝となった。さらに翌12日のネクセン戦ではチーム史上初の5連勝となった。6月16日、水原のNC戦ではマルテの犠牲フライでチーム史上初のサヨナラ勝ちを収めた。
 6月20日はさらなる強化を図り、チャン・ソンウの加入で出番が減った捕手ヨン・ドカンを交換要員に、NCから控え外野手のオ・ジョンボク、左のリリーフ要員ホン・ソンヨンを1対2トレードで獲得した。6月23日のLG戦でそのオ・ジョンボクが移籍後初本塁打を記録するなど活躍、シーズン20勝目と1か月かからず10勝を追加し、チームが明らかに変わったことを示した。7月3日から5日までのキアとの3連戦で、本拠地水原でチーム史上初となる同一カード3連勝を果たした。
 7月8日、6月までたった1勝しかあげられず退団したアーウィンの代役として、2012年サムソンに在籍していた新外国人投手ジャマーノ(元福岡ソフトバンク)と契約した。7月10日、首位を走るサムソン相手にチーム新記録となる16得点で大勝するなど、シーズンも折り返し地点を過ぎて他チームとそん色ない戦いぶりを見せるようになった。大卒新人チョ・ムグン、抑えのチャン・シファンによる必勝リレーも完成していた。また7月14日のトゥサン戦でジャマーノがKTでの初勝利をあげ、ようやく9チームすべてから勝利を記録した。7月18日、水原KTウィズパークではプロ野球オールスター戦が開催され、KTの選手の目立った活躍はなかったが、新球団が地元に根付きつつあることを実感させた。
 7月31日のロッテ戦で、5月初めまで在籍していたパク・セウンに抑えられ5連敗と停滞したが、8月1日、チャン・ソンウの2本塁打などでチーム新記録となる19得点で大勝した。翌2日のロッテ戦では延長12回裏キム・サンヒョンのタイムリーでサヨナラ勝ちした。8月19日のネクセン戦では最大7点差を追いつき、延長10回裏押し出しの四球でサヨナラ勝ちし、翌20日のネクセン戦で4連勝となり勝率も3割台半ばまで上げてきた。
 8月28日のキア戦で、FAで移籍し主力として活躍してきたパク・キョンスが自身初となるシーズン20本塁打を達成し、30日のSK戦まで4連勝となり勝率3割台後半に入った。9月9日のサムソン戦で抑えのチャン・シファンが足の怪我で残り試合に出場できなくなってしまったが、その代役はチョ・ムグンが務めた。そのためシーズン終盤となっても疲れを見せることはなく、9月11日のLG戦でオクスプリングがチーム史上初となる10勝投手となった。9月21日のLG戦でオクスプリングは11勝目をあげ、チームもシーズン50勝の大台に乗り、開幕前はプロ野球史上初のシーズン100敗を喫するのではないかと言われた下馬評を覆すことに成功した。
 10月2日のサムソン戦で4連敗となったが、翌3日のハンファ戦でオクスプリングが12勝目をあげる好投で勝利した。10月5日の公式戦最終戦・NC戦は延長12回を終えても2-2で決着がつかずチーム史上初の引き分けとなり、あいにく最下位のままで勝率も4割に届かなかったが、大きな手ごたえをつかみ一軍参入1年目となった2015年シーズンの幕を閉じた。シーズン52勝は1991年のサンバンウル(1999年限りで解散)、2013年のNCと並び新規参入球団としてはプロ野球史上最多タイとなり、面目は保たれた。
 

2. 【チーム分析】
 新球団の一軍1年目としては上々だった2015年シーズン。投打の成績を振り返ると、チーム打率.273は10チーム中6位、チーム本塁打数129は9位、チーム総得点670は8位、チーム盗塁数124は3位と、攻撃面に関しては他チームに大きく見劣りしていたとは言えなかった。
 イ・デヒョンがチーム最多の44盗塁でけん引役となり、2009年本塁打打点王となったときの勢いを感じさせたキム・サンヒョン(27本塁打・88打点)、一時期チームから離脱したが首位打者争いに加わった外国人打者マルテ(打率.348・20本塁打・89打点)、31歳にして自己最高の成績(22本塁打・73打点)を記録したセカンドのパク・キョンスが中軸となった。また正捕手となったチャン・ソンウも13本塁打と打撃面でも存在感を見せ、6月から加わった外国人野手ダン・ブラックも12本塁打と長打力を示した。
 ユン・ヨソプ、ハ・ジュンホ、オ・ジョンボク、といった他チームでトレードで移籍してきた選手も活躍し、開幕前とシーズン後半では全く別のチームといっても差し支えはなかった。またキム・ミンヒョク、シム・ウジュンなどの若手、キム・サヨンなど他チームで出場機会に恵まれなかった選手たちも一軍で起用され、選手層を厚くしていった。
 守備面ではロッテからFAで移籍し、近年の不振から脱したショートのパク・キョンスの存在感が大きかった。だが新球団であるため経験の浅い選手も目立ち連携面などで問題があったか、失策数は10チーム中最多の118を記録し課題は残った。


 打線の足を引っ張ったのは、他チームがあまり人材を供給しようとしなかったため2014年までに補強が思うようにいかなかった投手陣だった。チーム防御率5.56は10チーム中最下位、チーム総失点875は最多と質、量ともにかなり厳しい状況だった。
 先発投手陣でシーズンを通してローテーションを守ったのは38歳のベテラン外国人投手オクスプリングだけで、チーム最多の12勝をあげた。7月に入団した外国人投手ジャマーノは3勝、途中退団となったアーウィンは1勝、シスコは未勝利に終わった。韓国人投手では24歳の左腕チョン・デヒョンが5勝したが、先発の頭数は最後まで足りないままだった。10月にようやく19歳の誕生日を迎えた高卒新人オム・サンベクが5勝し、可能性を感じさせた。
 オクスプリングを除く先発陣が信頼できない中、チャン・シファン(7勝)、大卒新人チョ・ムグン(8勝)など力投したリリーフ陣に打線の援護で勝ち星が付くことが目立った。抑えは9月にけがで離脱するまでチャン・シファンがつとめ、チーム最多の12セーブを記録した。中継ぎ陣では21歳の若手左腕シム・ジェミン、コ・ヨンピョ、チェ・ウォンジェ、イ・チャンジェ、6月にNCから移籍してきた左腕ホン・ソンヨンなどが主に起用された。異色の経歴の選手として、これまでMLB(メジャーリーグベースボール)傘下のマイナーリーグでは捕手として出場してきたが、KTでは投手に転向し主に中継ぎとして42試合に登板した右腕キム・ジェユンもいた。


3. 【オフシーズンの動向】
 FA市場では、ネクセンの主力打者だったベテランのユ・ハンジュンと契約し、打線のさらなる強化に努めた。また余剰戦力を対象とした2次ドラフトで35歳にしてプロ通算1836安打の実績のあるイ・ジニョンをLGから獲得した。2016年シーズンまで他チームより1名多い4名契約が可能な外国人選手はまずマルテと再契約し、投手陣が手薄なためシュガー・レイ・マリモン、ヨハン・ピノ、2015年7月までSKに在籍していたトラビス・バンワートと3人の新外国人投手と契約した。チーム最多勝だったが38歳と年齢の高いオクスプリング(2016年よりロッテの二軍コーチ就任)、期待に応えられなかったジャマーノ、そしてダン・ブラックとの再契約は見送られた。
 2015年シーズン途中から自信を持って戦えるようになり、オフシーズンの補強に成功したため、一軍参入2年目の2014年、チーム史上初のポストシーズン進出に成功したNCのように、2016年シーズンのKTに対する期待は大きくなっている。だが私生活での不祥事により正捕手チャン・ソンウが2016年シーズン開幕から50試合の出場停止処分を受け、戦力的に大きな穴を抱えながら望むことになった。他チームからの移籍選手など新戦力の起用だけでなく、チームの将来を担う人材を育て、まずは最下位から脱出すること、さらにその先の目標として上位争いに加われるか、2015年ある程度の成果を出したチョ・ボムヒョン監督の手腕がさらに問われることになる。
 
(文責:ふるりん