チーム初の外国人監督のファーストシーズンは?
2020年シーズン成績
レギュラーシーズン:73勝71敗(勝率.507)6位
ポストシーズン:出場せず
2020年シーズン開幕前、キアタイガーズはチーム史上初の外国人監督であるマット・ウィリアムス新監督が注目を集めた。現役時代は2001年アリゾナダイヤモンドバックスでワールドシリーズ優勝に貢献するなどMLB(メジャーリーグベースボール)で内野手として活躍したウィリアムス監督には、現役引退後にワシントンナショナルスの監督など指導者をつとめ、11回の韓国シリーズ優勝を誇るキアの再建が託されていた。とはいえ主力野手のアン・チホンがFA(フリーエージェント)となりロッテへ移籍した中、ブルックス、ギャニオンの外国人選手2名が最大の補強で、若手の育成と起用で強化を図る方針だったとみられる。
3月の示範競技が中止となり、例年より1ヵ月以上遅かった5月5日のレギュラーシーズン開幕戦は、開幕投手を務めたエース格のヤン・ヒョンジョンが乱調で2-11と敗れた。5月7日のキウム戦で8回裏に5点を奪って逆転し8-4でウィリアムス監督に韓国での初勝利をもたらした。5月19日のロッテ戦から23日のSK戦まで5連勝となったが、後が続かなかった。先発で起用されていた27歳のイ・ミヌが5月だけで3勝とし、チームに新たな息吹が感じられた。シーズン序盤でつまづき下位から抜け出せなかった2019年と違い、勝率5割前後を維持した2020年の序盤は悪くはなかった。
6月7日にホン・ゴンヒィ投手をトゥサンへトレードに出し、内野手のリュ・ジヒョクを獲得したが、あいにく6月14日のSK戦で負傷しーズン終了まで復帰できなかった。ブルックス、ギャニオンの外国人選手の先発投手2名が韓国に慣れ、ヤン・ヒョンジョン、イム・ギヨン、イ・ミヌとともに先発ローテーションが固定され、タッカー、チェ・ヒョンウなどの中軸打者が好調で、NCが首位を独走する中でトゥサン、LG、キウムなどと上位争いを続けた。
7月8日のKT戦で4連敗となり6位にまで順位を下げたが、その後の連勝で4位にまで上げた。高卒新人チョン・ヘヨンが一軍に合流しリリーフで好投、チームの起爆剤となった。7月26日のサムソン戦までの4連勝で3位となり、シーズンの後半に大きな期待を抱かせた。ところが8月1日のロッテ戦から4日のLG戦まで4連敗し、上位から遠ざかり始めた。8月12日、開幕当初は抑えだったが不振でその座を外れていたムン・ギョンチャン、パク・チョンスの投手2名をNCへトレードに出し、レギュラーを固定できていない三塁を守れるキム・テジンとリリーフも先発も可能なチャン・ヒョンシクの2名を獲得した。
トレードの効果があったか8月14日から16日までのSK3連戦で3連勝となったが、18日のLG戦から22日のキウム戦まで5連敗となり7位にまで後退した。キム・ソンビンなど投打ともに故障者が相次いだが、9月になり連勝を重ねキウム、トゥサン、LG、KTとの5位争いに加わった。課題だった抑えにはチョン・サンヒョンが定着した。ブルックスが好調で9月19日のハンファ戦で11勝目、9月だけで4勝目をあげキアはトゥサンを抜いて5位に浮上、し烈な終盤の順位争いを勝ち抜き2年ぶりのポストシーズン進出が見えてきたかに思えた。
ところが、ブルックスは家族の交通事故により帰国してしまい、シーズン中に韓国へ戻ってくることはなかった。投手陣の大黒柱を失ったキアは勝率を下げ6位に後退、9月27日のロッテ戦から10月1日のキウム戦で4連勝し再び5位に浮上したが、翌2日からのトゥサンとの3連戦ですべて敗れ、6日のハンファ戦まで4連敗となり6位に後退した。10月13日のNC戦でヤン・ヒョンジョンが7年連続のシーズン10勝目を記録するも、チームが浮上することはなかった。37歳のチェ・ヒョンウが好調で首位打者争いをするも、先発投手陣が疲弊し試合を作れなかった。
10月23日のLG戦で敗れ5位以上の可能性が消滅し、ポストシーズン進出は失敗となった。10月29日のトゥサン戦で先発ヤン・ヒョンジョンが6回途中7失点で降板し敗れたがロッテも敗れたため6位が確定した。10月31日の最終戦となったNC戦ではチェ・ジョンヨンのタイムリーでサヨナラ勝ちし、ウィリアムス監督にとって韓国でのファーストシーズンを終えた。
【投手の成績】
防御率5.14(8位) 奪三振1038(3位) 被本塁打120(8位) 与四球559(3位)
[主な先発投手]
ヤン・ヒョンジョン 31試合 11勝8敗 防御率4.70
ギャニオン 28試合 11勝8敗 防御率4.34
イム・ギヨン 25試合 9勝10敗 防御率5.15
イ・ミヌ 22試合 6勝10敗 防御率8.79
キム・ギフン 22試合 0勝4敗1ホールド 防御率5.37
先発投手のチーム防御率は4.74で10チーム中8位だった。ヤン・ヒョンジョン、ギャニオン、ブルックスの3名が11勝をあげるも、2019年の最優秀防御率(2.29)の個人タイトルを受賞したヤン・ヒョンジョンはシーズン後半の不振により防御率が大幅に悪化した。代わって先発投手陣の大黒柱となったブルックスが、終盤に差し掛かった9月下旬に家族の交通事故により帰国したことがポストシーズン進出を逃した大きな要因となった。また韓国人の先発投手の層が薄く、イ・ミヌがシーズン後半に不調となっても代役として機能する若手の台頭がなかった。
[主なリリーフ投手]
ホン・サンサム 57試合 4勝5敗17ホールド 防御率5.06
パク・チュンピョ 50試合 7勝1敗6セーブ11ホールド 防御率1.57
コ・ヨンチャン 48試合 1勝1敗1セーブ2ホールド 防御率6.83
イ・ジュニョン 48試合 0勝2敗13ホールド 防御率5.32
チョン・サンヒョン 47試合 2勝2敗15セーブ13ホールド 防御率2.45
チョン・ヘヨン 47試合 5勝3敗1セーブ11ホールド 防御率3.35
チャン・ヒョンシク 28試合 3勝4敗6ホールド 防御率11.20
リリーフのチーム防御率は5.75で10チーム中9位だった。シーズン当初抑えを務めていたのはムン・ギョンチャンだったが不振によりNCへトレードされ、代わりにチョン・サンヒョンが抑えを任されチーム最多の15セーブを記録したが10月に故障で離脱したため、最後は中継ぎだったパク・チュンピョが抑えを任された。トゥサンから移籍したホン・サンサムがチーム最多登板で復活をアピールしたが、一部の選手を除いて投手陣の層は薄かった。高卒新人のチョン・ヘヨンがリリーフで5勝を記録したのが最大の収穫だった。
【野手の成績】
打率.274(6位) 本塁打130(6位) 得点724(7位) 盗塁47(10位) 失策100(4位)
捕手:ハン・スンテク 83試合 打率.226 9本塁打 29打点 0盗塁
一塁:ユ・ミンサン 126試合 打率.246 8本塁打 65打点 0盗塁
二塁:キム・ソンビン 85試合 打率.330 1本塁打 37打点 1盗塁
三塁:ナ・ジュファン 64試合 打率.279 6本塁打 26打点 0盗塁
遊撃:パク・チャンホ 141試合 打率.221 3本塁打 36打点 15盗塁
左翼:ナ・ジワン 137試合 打率.291 17本塁打 92打点 0盗塁
中堅:チェ・ウォンジュン 123試合 打率.326 2本塁打 35打点 14盗塁
右翼:タッカー 142試合 打率.306 32本塁打 113打点 0盗塁
指名:チェ・ヒョンウ 140試合 打率.354 28本塁打 115打点 0盗塁
控え:キム・ミンシク、ペク・ヨンファン、キム・ギュソン、ファン・デイン、キム・テジン、オ・ソヌなど
37歳のチェ・ヒョンウが自身2度目の首位打者になるなど好調で、韓国2年目の外国人選手タッカーとともに打線の中軸となった。2019年は不振だった35歳のナ・ジワンが復調したのも大きかった。しかしポストシーズンに進出した上位5チームと比べるとチャンスメイカーや下位打線の弱さが目立った。1番打者としての役割が期待されたキム・ソンビンが7月から8月にかけて故障により欠場が多かったのが痛かった。2019年はパク・チャンホが主に守った三塁が固定できず、シーズン前半はSKから移籍したベテランの36歳のナ・ジュファンが、9月以降はトレードでNCから移籍したキム・テジンが主に起用された。
最大の弱点は機動力不足でチーム盗塁数が10チーム中最下位だったため、攻撃での作戦面で少なくない影響を与えたと思われる。2019年の盗塁王(39個)だったパク・チャンホも15盗塁と打撃不振で数を大きく減らした。主力への成長が期待されていた23歳のチェ・ウォンジュンが守備に課題を抱えるものの外野の一角に定着したのが最大の収穫だった。同じ23歳のキム・ギュソンが負傷で離脱したキム・ソンビンの代役として起用され一軍での経験を積んだ。
【オフシーズンの動向】
FAとなった2名のうちチェ・ヒョンウは契約期間3年で再契約した。もう1名のヤン・ヒョンジョンの去就に注目が集まり、キアタイガーズ史上2位の個人通算147勝を記録、韓国シリーズで優勝した2009年から10年以上先発投手陣を支えてきたエースはMLBへ挑戦の意思を明らかにし、2月12日(アメリカ合衆国時間)にテキサスレンジャースとスプリングトレーニングの招待選手としてマイナー契約を結んだ。
外国人選手3名のうちタッカー、ブルックスとは再契約するも、10月に成績が悪化したギャニオンは再契約を見送られ、代役の新外国人選手としてMLB通算17勝の右腕ダニエル・メンデン投手と契約した。また2013年から主力野手として活躍してきたキム・ジュチャンが退団し現役を引退した。
ウィリアムス監督は未知だった韓国の野球について理解するのに2020年シーズンを費やしたようで、MLBでの経験を活かしたデータを活用した大胆な作戦などはあまり見られなかった。韓国で2年目となる2021年シーズンでは本領を発揮することが期待されるが、エースとして活躍してきたヤン・ヒョンジョンの不在を埋め、また実績のあるベテラン選手の後継者を育てるため、若手の起用を世代交代を前提としたチーム作りを進めなければならないなど課題は多い。12度目の韓国シリーズ優勝が目標とはいえ、まずは3年ぶりのポストシーズン進出が現実的な目標になると思われる。
(文責:ふるりん)