DAILY KOREAN PRO BASEBALL 2

1982年に発足し、2024年時点で10球団が加盟する韓国野球委員会(KBO)による韓国のプロ野球リーグ(通称KBOリーグ)に関するブログ。レギュラーシーズン、ポストシーズン(韓国シリーズなど)の試合速報や球団別の情報、現役プロ選手が含まれる野球韓国代表が出場する国際大会の情報などもお伝えします。 twitter : @kbodigest

2020年シーズン回顧 第1回 NCダイノス

8年目の初優勝

2020年シーズン成績 

レギュラーシーズン:83勝55敗6分(勝率.601)1位

ポストシーズン韓国シリーズ優勝

 

 2013年の一軍参入後、8年目にして韓国シリーズ初優勝を果たしたNCダイノス。2年目の2014年にポストシーズン初出場、4年目の2016年に韓国シリーズ初出場とプロ野球9番目の球団と新興勢力ながら少しずつ韓国シリーズ優勝に近づいていたが、2018年に最下位に転落してしまった。そこでFA(フリーエージェント)となっていたプロ野球界最高峰の捕手ヤン・ウィジを補強し、2019年より指揮を執るイ・ドンウク監督のもと巻き返しに成功し、5位に浮上していた。感染症拡大の影響で3月の示範競技が中止となり、5月5日と例年より開幕が1ヵ月以上遅れた2020年シーズンの開幕前、優勝候補としてあげられていたのは主に2019年の韓国シリーズに出場したトゥサンとキウムであった。

 5月5日、無観客の開幕戦のサムソン戦は2019年の足の怪我から復活したナ・ソンボムの先制本塁打、韓国2年目の外国人選手ルチンスキーの好投で完封勝利を収めると開幕4連勝と好スタートを切った。5月12日のKT戦から19日のトゥサン戦まで7連勝と快進撃は続き、6月3日のSK戦から6月9日のトゥサン戦まで6連勝、30試合を終えて勝率8割と圧倒的な強さで首位を独走、2位以下を大きく引き離していた。

 快進撃の立役者は23歳の若手左腕ク・チャンモだった。2019年に10勝を記録し先発に定着していたが、2020年5月は5試合に先発登板し4勝0敗、防御率0.51と圧倒的な成績だった。また2019年まで一軍に定着していなかった26歳の内野手カン・ジンソンが猛打を見せ、新外国人選手でセンターの守備も安定し下位打線で脅威となったアルテールとともチームを勢いづけ、既存の戦力と融合し他球団を圧倒した。

 6月から7月にかけてNCは6割後半の勝率を維持し、このまま独走でレギュラーシーズン初優勝を果たすかに思えた。だが7月28日のロッテ戦でシーズン初の3連敗を喫すると勢いに陰りが見え始めた。8月になり開幕9連勝で首位独走に大きく貢献してきたク・チャンモが故障で一軍から外れ、ルチンスキー、ライトの両外国人選手以外信頼できる先発投手がいなくなった。投打ともに振るわなくなり、8月半ばには勝率を6割台前半に下げ、キウム、LGとの差が大きく縮まった。手薄だったリリーフの補強として、チャン・ヒョンシクとキム・テジンとの2対2トレードでキアからムン・ギョンチャンとパク・チョンスの2名の投手を獲得した。

 こういった中で8月27日、プロ2年目の20歳の若手ソン・ミョンギがトゥサン戦でプロでの先発初勝利をあげ希望が見えてきた。上位が混戦となる中首位を維持すると、9月後半から優勝へのラストスパートへと入った。9月20日、ロッテとのダブルヘッダー連勝を皮切りに10月1日のSK戦までシーズン最多の11連勝で、2位のKTと差をつけレギュラーシーズン初優勝は時間の問題かと思われた。しかし10月8日のキウム戦から10月13日のキア戦までシーズン初の6連敗と足踏みが続いた。

 10月24日、本拠地・昌原での2位LGとの直接対決で引き分け以上ならレギュラーシーズン初優勝、韓国シリーズ出場が決まることになった。NCは5回裏、ヤン・ウィジの本塁打で3-1と逆転するも同点に追い付かれた。試合は延長に入り、結局12回を終えて規定により3-3の引き分けでレギュラーシーズン初優勝を決めた。またこの試合では約3か月ぶりにク・チャンモが復帰しリリーフで調整登板した。先発に定着したソン・ミョンギは10月だけで5勝をあげ、韓国シリーズに向けて好材料となった。

 韓国シリーズの相手はレギュラシーズン3位でLGとの準プレーオフ、KTとのプレーオフを勝ち抜いた2019年の優勝チーム、トゥサンだった。2016年に初めて韓国シリーズに出場した際はトゥサンの前に0勝4敗だった。第1戦は11月17日、本拠地・昌原ではなく中立地の高尺スカイドームで行われ、1回裏にナ・ソンボムのタイムリーで1点を先制、4回裏にアルテールの本塁打で3点を追加し5-3で韓国シリーズのチーム史上初勝利を記録した。翌18日の第2戦は9回裏に3点を返すものの4-5で敗れ、1日置いた20日の第3戦は点の取り合いとなり6-7で敗れ、1勝2敗と不利になった。

 だが11月21日の第4戦で先発ソン・ミョンギが5回裏まで無失点に抑え、6回表に2点を先制するとリリーフとして第1戦で先発したルチンスキーを登板させる大胆な策をとった。この試合を3-0で完封勝ちし対戦成績を2勝2敗とすると流れが変わった。1日置いた11月23日の第5戦では5回裏にアルテールのタイムリーで1点を先制し、6回裏にヤン・ウィジの本塁打で2点を追加、先発ク・チャンモが7回無失点と完全復活をとげ、5-0で2試合連続の完封勝利、初優勝まであと1勝となった。

 11月24日の第6戦、5回裏にイ・ミョンギのタイムリーで1点を先制すると6回裏に3点を追加し、7回表に2点を返されたが8回表はソン・ミョンギ、9回表は抑えのウォン・ジョンヒョンが相手の反撃を断ち4-2で勝利し、第4戦から3連勝で韓国シリーズ初優勝を成し遂げた。2013年の一軍創設から8年目の栄冠であった。韓国シリーズMVP(最優秀選手)は攻守ともに活躍した正捕手ヤン・ウィジが選ばれた。本拠地・昌原ではなく、中立地の高尺スカイドーム感染症拡大防止のため少なくなったファンの前での勝利の美酒であったのが残念であった。しかしながら補強と育成を両立させたNCダイノスがプロ野球の歴史を書き換えたことは確かであった。

 

【投手の成績】

防御率4.59(5位) 奪三振1049(1位) 被本塁打153(3位) 与四球547(4位)

[主な先発投手]

ルチンスキー    30試合 19勝5敗 防御率3.05

ライト       29試合 11勝9敗 防御率4.68

ク・チャンモ    15試合 9勝0敗1ホールド 防御率1.74

ソン・ミョンギ     36試合 9勝3敗  防御率3.70

イ・ジェハク      19試合  5勝6敗 防御率6.55

キム・ヨンギュ   20試合 2勝2敗1ホールド 防御率5.45

 先発の防御率4.41は10チーム中4位だった。韓国2年目の外国人選手ルチンスキーが安定した内容でチーム最多の19勝を記録した。チームに勢いを与えたのは7月までに圧倒的な内容で開幕9連勝を果たした23歳の左腕ク・チャンモだったが、肘の故障を抱えていたため8月から2か月以上離脱した。その不在を埋めたのがシーズン当初は中継ぎだった若手右腕のソン・ミョンギで、8月からの先発転向後に9勝を記録した。また9月以降は20歳の若手左腕キム・ヨンギュも先発として起用された。

 

[主なリリーフ投手]

イム・ジョンホ    69試合 2勝2敗22ホールド 防御率4.61

ウォン・ジョンヒョン 58試合 3勝5敗30セーブ  防御率4.26

ペ・ジェファン    53試合 1勝3敗12ホールド 防御率3.98

キム・ジンソン    48試合 3勝0敗6ホールド 防御率2.66

イム・チャンミン   44試合 7勝2敗11ホールド 防御率5.26 

パク・チヌ      43試合 2勝2敗7ホールド 防御率5.23

 リリーフの防御率は4.84で10チーム中5位だった。チーム最多登板は左のワンポイント要員のイム・ジョンホでチーム最多の22ホールドを記録した。ベテランのウォン・ジョンヒョンは2年連続30セーブを記録したが失敗も少なくなかった。シーズン前半は中継ぎの柱だった25歳のペ・ジェファンが9月後半から不振で離脱したが、その代わりをキム・ジンソン、イム・チャンミンなど経験豊富な選手たちが埋めて優勝に導いた。

 

【野手の成績】

打率.291(2位) 本塁打187(1位) 得点888(1位) 盗塁101(4位) 失策87(8位)

捕手:ヤン・ウィジ    130試合 打率.328 33本塁打 124打点 5盗塁

一塁:カン・ジンソン   121試合   打率.309 12本塁打 70打点 9盗塁

二塁:パク・ミヌ     126試合 打率.345 8本塁打 63打点 13盗塁

三塁:パク・ソンミン   123試合 打率.306 14本塁打 63打点 0盗塁

遊撃:ノ・ジンヒョク      132試合 打率.274 20本塁打   82打点   0盗塁

左翼:イ・ミョンギ    136試合 打率.306 2本塁打  45打点 12盗塁

中堅:アルテール     136試合 打率.278 31本塁打  108打点 22盗塁

右翼:クォン・ヒィドン  123試合  打率.260 12本塁打  50打点 3盗塁

指名:ナ・ソンボム    130試合 打率.324 34本塁打 112打点 3盗塁

控え:キム・テグン、イ・サンホ、チ・ソックン、モ・チャンミン、イ・ウォンジェ、キム・ソンウクなど

 優勝の最大の原動力は切れ目のない強力打線だった。チーム得点、本塁打はリーグ1位だった。イ・ミョンギ、パク・ミヌなどの上位打線がチャンスを作り、ナ・ソンボム、ヤン・ウィジ、パク・ソンミンなどの中軸が返すパターンが確立されていた。またしてノ・ジンヒョク、アルテールなど長打力のある下位打線も脅威となった。特にアルテールは恐怖の8番打者としてだけでなく、積極的な走塁や外野守備の面でも貢献が大きかった。野手の選手層は厚かったが、首位を走り続けたチーム事情もあり、有望な若手の起用の機会が少なかったのが今後の課題である。

 

【オフシーズンの動向】

  最大の関心事は、31歳となったナ・ソンボムのポスティングによるMLBメジャーリーグベースボール)移籍だったが実現しなかった。FA(フリーエージェント)となった選手もおらず、控えの内野手イ・サンホとLGで伸び悩む内野手ユン・デヨンとのトレード以外は比較的静かだった。

 外国人選手3名のうちルチンスキー、アルテールとは再契約するも、先発として長いイニングを投げられず防御率も高かったライトとは再契約せず、新外国人選手としてウェス・パーソンズ投手と契約した。また投手ではペ・ジェファン、外野手ではキム・ソンウクなど一軍で活躍した選手が兵役のため3月に軍へ入隊予定であり、やや選手層が薄くなった。

 

 2021年シーズン、ナ・ソンボムの残留もあってNCには韓国シリーズ2連覇の期待も高まる。就任2年目で最高の結果を出したイ・ドンウク監督にはさらなるチームの進化が求められる。自身が抜擢した若手が主力に定着すれば、新興勢力ではなく真の強豪としてプロ野球界に君臨する日が近づくであろう。

 

(文責:ふるりん